『だからわたしは、今回あなたを本当に解雇することにしました。あなたの道明寺で過ごした記憶を消すこと。それが条件』
だからこれを着けたのか。
……着ける時、葵はどんな思いだったんだろうと、心が痛む。
『でもあなた、抵抗するんだもん。なかなか忘れようとしてくれないから、どうしたもんかなあと思ってました。……バレンタインのチョコ、使ってごめんね?』
「……!」
あれは正直めちゃくちゃ傷ついた。
目が覚めたそこに置いてあったのは、リボンの意味が書かれたカードと、黒色と灰色のリボンが結ばれたチョコ。……そして、『解雇する』という、一枚の薄っぺらい紙。
『それももちろん嘘ですよ? もうわかってると思うけれど。……あなたに結ぶべき色はなんだろうな? 青色で、まずは【ごめんなさい】かな? 傷つけちゃったから』
……もう。いいよ。
『あとは朱色! これはたくさんたくさん結びたいな~。【ありがとう】って。言葉だけじゃ、足りないよー』
十分。わかってる。わからないわけ、ないじゃないか。
『白色もいいかな? 【話したい】こといっぱいあるんだ。……でも、わたしは橙色を巻くよ。ちょっと、違った意味になるけど…………シント! 大好きだよ! わたしにとって、あなたは正真正銘、本物の家族です! かけがえのない…………わたしの、大切な大切な家族です。そして、最初で最後の、最高すぎる執事さんでした! 家族として、あなたがとっても【大好き】ですっ!』
今すぐにでも抱き締めたい衝動に駆られる。
でもその直後、耳元でカチと音がしたあと、カラン……と何かが落ちた。



