「……はは。真っ赤じゃん」
頬を両手で包み込んでやると、すごく熱かった。
「……あったかくなった」
ほっと息をつこうとすると、何故かぎゅうと服が掴まれた。どうしたのかと思っていたら、潤んだ瞳で見上げてくる。
「……ひなた。くん……」
「……っ、(こいつ、わかってやってんの)」
兄の二の舞になる前に、葵を抱き締めておいた。
「……? ひなたくん。かたづけ……」
「いいよ。やらせておけば」
「……よくない」
「……じゃあ、もうちょっと待って」
今それどころじゃないので。というのは飲み込んでおく。
「……今日で。家族。お別れ……」
「だから、いつでも飛んでいくよ」
「ん。ありがとう」
こてんと、甘えるように頭を乗せてくるせいで、結局のところ治まるものも治まらないのだが。
「……。ごめんね」
「ん? 何が?」
「……ごめん」
「………………」
「全部。全部。……ごめん」
「……うん。いいよ? 許してあげる」
「……そ、か。やったあ」
葵の声には、全く元気がなかった。
そっと体を起こすと、案の定嬉しそうな顔でもなくて、また泣いたらしい頬に手を添える。
「……ごめん」
真剣みを帯びた声に、目の前の彼女は不思議そうに首を傾げた。
「……なにが。ごめん……?」
「ぜんぶ。……全部、ごめんね」
「……。うん。いいよ? 許してあげる」
「そっか。……よかった」
そう言う割には情けない声しか出なくて。苦笑いしか出てこなくて。
「あー……まずいな」
「……? ひなた。くん……?」
それなのに、体が勝手に、彼女に吸い寄せられていく。
「(……逃げてよ。頼むから。ツバサの二の舞になる前に)」
手は頬に、腰に添えてるだけ。
今ならまだ、間に合うのに。それでも、葵は逃げようとしない。
「……。ひなた。くん……」
「――――」
小さく、何かが弾けた。今までの反動か、それが溢れてくるのを止められない。
「ひなたくん……」
「……あおい……」
そう呼ばれた時にはもう、抗うのも忘れて唇を寄せていた。



