すべてはあの花のために⑥


「……はは。真っ赤じゃん」


 頬を両手で包み込んでやると、すごく熱かった。


「……あったかくなった」


 ほっと息をつこうとすると、何故かぎゅうと服が掴まれた。どうしたのかと思っていたら、潤んだ瞳で見上げてくる。


「……ひなた。くん……」

「……っ、(こいつ、わかってやってんの)」


 兄の二の舞になる前に、葵を抱き締めておいた。


「……? ひなたくん。かたづけ……」

「いいよ。やらせておけば」

「……よくない」

「……じゃあ、もうちょっと待って」


 今それどころじゃないので。というのは飲み込んでおく。


「……今日で。家族。お別れ……」

「だから、いつでも飛んでいくよ」

「ん。ありがとう」


 こてんと、甘えるように頭を乗せてくるせいで、結局のところ治まるものも治まらないのだが。


「……。ごめんね」

「ん? 何が?」

「……ごめん」

「………………」

「全部。全部。……ごめん」

「……うん。いいよ? 許してあげる」

「……そ、か。やったあ」


 葵の声には、全く元気がなかった。
 そっと体を起こすと、案の定嬉しそうな顔でもなくて、また泣いたらしい頬に手を添える。


「……ごめん」


 真剣みを帯びた声に、目の前の彼女は不思議そうに首を傾げた。


「……なにが。ごめん……?」

「ぜんぶ。……全部、ごめんね」

「……。うん。いいよ? 許してあげる」

「そっか。……よかった」


 そう言う割には情けない声しか出なくて。苦笑いしか出てこなくて。


「あー……まずいな」

「……? ひなた。くん……?」


 それなのに、体が勝手に、彼女に吸い寄せられていく。


「(……逃げてよ。頼むから。ツバサの二の舞になる前に)」


 手は頬に、腰に添えてるだけ。
 今ならまだ、間に合うのに。それでも、葵は逃げようとしない。


「……。ひなた。くん……」

「――――」


 小さく、何かが弾けた。今までの反動か、それが溢れてくるのを止められない。


「ひなたくん……」

「……あおい……」


 そう呼ばれた時にはもう、抗うのも忘れて唇を寄せていた。