すべてはあの花のために⑥


「……?」

「……待った。今のなし」

「……。ひなたく」

「ちょ、……今こっち見たらダメだって……」


 そっと、葵の目元を手で覆う。


「……みえない」

「見させない」

「ぶう……」

「……他は? 何か話した?」

「……? ……拾ってくれた。旦那さんの話した」

「え。ツバサ知ってるの?」

「…………」

「はいはい。聞かないよ」

「いわなかったら。おそわれた」

「そう。悪かったね。そんだけ好きなんだって。あんたのこと」

「ごめんなさいぃぃ……」

「あー。はいはい。落ち着こうねー」


 赤くなった顔も、そんな葵にそれどころではなくなった。
 小さくため息をつきながらよしよしと頭を撫でてあげていたら、遠慮がちに声が聞こえ始める。


「……なれ、なかったら……」

「ん? 何に?」

「せいとかい」

「ああうん。なれなかったら?」

「……がんばってね」

「…………」

「おてつだい。あったら、する」

「……ん。ありがとう」

「また。呼んで……? 飛んでいく」

「……大丈夫だよ」


 少し寂しそうな、不安そうな葵を、そっと引き寄せる。


「家族、なんでしょ?」

「……っ。ひな……」

「あんたにとってオレらが、生徒会が、家族同然だったんでしょう?」

「……うん」

「あんたが来る必要なんてないから」

「……え」

「違う違う。オレらがあんたのとこにいつでも行くよって話」

「え……?」

「いつでも飛んでく。それこそ仕事放って」

「だ、だめ。お仕事。しないと。つぎSクラス……」

「あんた以上に大切なもんなんかないよ」

「っ。え……?」


 驚いた様子の彼女に小さく笑いながら、涙でべしゃべしゃの顔を親指で何度も拭ってやる。強めに拭いてやると、彼女は少し困ったような顔をしていた。けれど、服を掴む手はやっぱり離れていかなくて。
 そのいじらしさに、つい悪戯心がくすぐられる。


「……。っ。ひなっ」


 そっと前髪を掻き上げて、まずは額へ。
 一度驚いた様子の彼女と間近で目を合わせて、今度は泣きすぎて腫れてしまった目蓋へ。赤くなった目元へ。唇で触れる。
 突飛な行動に、いつしか彼女の体はかちんと硬直していて、ぎゅっと目を閉じたまま口を引き結んでいた。満足する頃には、恥ずかしさに首まで真っ赤に。