「……?」
「……待った。今のなし」
「……。ひなたく」
「ちょ、……今こっち見たらダメだって……」
そっと、葵の目元を手で覆う。
「……みえない」
「見させない」
「ぶう……」
「……他は? 何か話した?」
「……? ……拾ってくれた。旦那さんの話した」
「え。ツバサ知ってるの?」
「…………」
「はいはい。聞かないよ」
「いわなかったら。おそわれた」
「そう。悪かったね。そんだけ好きなんだって。あんたのこと」
「ごめんなさいぃぃ……」
「あー。はいはい。落ち着こうねー」
赤くなった顔も、そんな葵にそれどころではなくなった。
小さくため息をつきながらよしよしと頭を撫でてあげていたら、遠慮がちに声が聞こえ始める。
「……なれ、なかったら……」
「ん? 何に?」
「せいとかい」
「ああうん。なれなかったら?」
「……がんばってね」
「…………」
「おてつだい。あったら、する」
「……ん。ありがとう」
「また。呼んで……? 飛んでいく」
「……大丈夫だよ」
少し寂しそうな、不安そうな葵を、そっと引き寄せる。
「家族、なんでしょ?」
「……っ。ひな……」
「あんたにとってオレらが、生徒会が、家族同然だったんでしょう?」
「……うん」
「あんたが来る必要なんてないから」
「……え」
「違う違う。オレらがあんたのとこにいつでも行くよって話」
「え……?」
「いつでも飛んでく。それこそ仕事放って」
「だ、だめ。お仕事。しないと。つぎSクラス……」
「あんた以上に大切なもんなんかないよ」
「っ。え……?」
驚いた様子の彼女に小さく笑いながら、涙でべしゃべしゃの顔を親指で何度も拭ってやる。強めに拭いてやると、彼女は少し困ったような顔をしていた。けれど、服を掴む手はやっぱり離れていかなくて。
そのいじらしさに、つい悪戯心がくすぐられる。
「……。っ。ひなっ」
そっと前髪を掻き上げて、まずは額へ。
一度驚いた様子の彼女と間近で目を合わせて、今度は泣きすぎて腫れてしまった目蓋へ。赤くなった目元へ。唇で触れる。
突飛な行動に、いつしか彼女の体はかちんと硬直していて、ぎゅっと目を閉じたまま口を引き結んでいた。満足する頃には、恥ずかしさに首まで真っ赤に。



