「それじゃあ、オレがお持ち帰りする」
「ひっ。ヒナタくん!?」
「させねえから。それなら俺がする」
相変わらず派手な頭の彼も、実の母親から自分の名前を呼ばれなくなって、限界が近づいていた。……危うく彼も、壊れてしまうところだったかもしれない。
「また朝ご飯作ってよ。美味しかったから」
「……! そんなのお安いご用だよっ」
そんなことを言ったらみんなが「オレも!」「俺も!」「おれも!」と食いついてきた。
「ダメだし。こいつ、オレ専用だから」
「え……!?」
腰に腕を回され、ぐっと引き寄せられる。
「……ねえ。さっきツバサと何話してたの」
「っ。ち、ちかいっ……」
「教えなよ。下僕のくせに盾突くの? ご主人様に」
「は、はなし、……っ」
「へえ。いい度胸だね。それじゃあここで公開悪戯を……」
「うぎゃー! 誰かー! 助けてー!」
相変わらずドS具合が半端ないけれど、前よりも自分を見てくる視線はあたたかい。
彼の左耳には、ツバサが着けていたもうひとつのピアスが、キラリと光っている。今まで着けていなかったのに、違和感がなくてよく似合っていた。
「ひーくん覚悟ー!」
「ぐえー」
まあそんなヒナタを、みんなが取り押さえていたけれど。
「お前さんも、ほんと一年間よく頑張ったな」
「え。キク先生? 何でビール……」
「まあ無礼講ってやつだよね~」
「いやいや理事長も! 何してんですか!」
ビール片手にお祝いしている二人は、すでに出来上がっていた。
「……ね? 断らなくてよかったでしょ?」
「理事長……」
「なんだかんだと引き留めた理由はあったにせよ、あいつらもお前さんと友達になれて、前以上に笑えるようになった」
「キク先生……」
最初、葵は生徒会を入ることを拒否した。それは、家の仕事を手伝えなくなったり、帰りが遅くなって家に帰ってこないんじゃないかと思われてしまうかもしれなかったからだ。
だからシントと、五つの約束を守ってきた。



