すべてはあの花のために⑥


 そう言うと、ペコッと頭を叩かれる。ヒナタの手には、どこから取り出したのかペコペコハンマーが握られていた。


「違うから。それはあんたは一つも悪くない」

「で、でも」

「ごめんけど、こればっかりは文句言わせない。悪いのはあんたの両親。勝手に浮気してたのを、夜遊びしてたのをバラされたからって、あんた捨てていいわけ?」

「そうだよ! あおいチャンはまだ子供だったんでしょ? ご両親は大人として間違ってるよ!」

「……まだ若かったんでしょ? そういう責任感とか、覚悟とかなかったんじゃない? ごめんけど、ほんとオレキレそうだから、あんたまた自分責めるんならその口と鼻塞ぐから」

「ひっ……!」


 大慌てで葵は自分の口と鼻を防御した。


「……拾った人は? あーちゃんいい人って言ってたけど……」

「……うん。いい人だよ? 旦那さんはとっても強くてやさしくて、奥さんは美人であったかい人だったの」

「でも、なんでお前は今の家に引き取られたんだよ。断ればよかったじゃねえか」


 ぐっ……と、葵が言葉に詰まる。


「そういえばオレもそれは聞いてない。……言える?」

「……えっと……」


 葵はちらりとカナデの方を見遣る。彼も何となくわかってたのか目を見開いてたけど、大丈夫だよと。そう目で教えてくれた。


「……二人とも。浮気してたから」

「……浮気?」

「二人が二人。別の人と…………その。そういうことしてて。それで。また、わたしのせいなのかって。思って……」

「うん。それで?」

「……今のお父様に。『だったらうちにおいで』って言われたの」

「…………」

「さ、最初は断ったよ……? 二人が大切だったし、離れるの嫌だった。……でも。どうしても、そんな二人がほんとの両親みたいになるのがいやだったから……」

「……だから、今の父親の手を取ったの?」

「……二人には幸せになってもらいたいと。思って。そうお父様に言ったら。『それじゃあ、たくさんお金を渡しておくよ』って言われたの」

「……売られたって、そういうこと」

「でもっ。わたしは二人が大好きだから。すごく大切だから。……っ、今も。守ってあげたいなって。思ってるの」

「……そっか。わかったわかった」


 俯いた葵の頭を、ヒナタがぽんぽんと撫でる。