そう言うと、ペコッと頭を叩かれる。ヒナタの手には、どこから取り出したのかペコペコハンマーが握られていた。
「違うから。それはあんたは一つも悪くない」
「で、でも」
「ごめんけど、こればっかりは文句言わせない。悪いのはあんたの両親。勝手に浮気してたのを、夜遊びしてたのをバラされたからって、あんた捨てていいわけ?」
「そうだよ! あおいチャンはまだ子供だったんでしょ? ご両親は大人として間違ってるよ!」
「……まだ若かったんでしょ? そういう責任感とか、覚悟とかなかったんじゃない? ごめんけど、ほんとオレキレそうだから、あんたまた自分責めるんならその口と鼻塞ぐから」
「ひっ……!」
大慌てで葵は自分の口と鼻を防御した。
「……拾った人は? あーちゃんいい人って言ってたけど……」
「……うん。いい人だよ? 旦那さんはとっても強くてやさしくて、奥さんは美人であったかい人だったの」
「でも、なんでお前は今の家に引き取られたんだよ。断ればよかったじゃねえか」
ぐっ……と、葵が言葉に詰まる。
「そういえばオレもそれは聞いてない。……言える?」
「……えっと……」
葵はちらりとカナデの方を見遣る。彼も何となくわかってたのか目を見開いてたけど、大丈夫だよと。そう目で教えてくれた。
「……二人とも。浮気してたから」
「……浮気?」
「二人が二人。別の人と…………その。そういうことしてて。それで。また、わたしのせいなのかって。思って……」
「うん。それで?」
「……今のお父様に。『だったらうちにおいで』って言われたの」
「…………」
「さ、最初は断ったよ……? 二人が大切だったし、離れるの嫌だった。……でも。どうしても、そんな二人がほんとの両親みたいになるのがいやだったから……」
「……だから、今の父親の手を取ったの?」
「……二人には幸せになってもらいたいと。思って。そうお父様に言ったら。『それじゃあ、たくさんお金を渡しておくよ』って言われたの」
「……売られたって、そういうこと」
「でもっ。わたしは二人が大好きだから。すごく大切だから。……っ、今も。守ってあげたいなって。思ってるの」
「……そっか。わかったわかった」
俯いた葵の頭を、ヒナタがぽんぽんと撫でる。



