すべてはあの花のために⑥


「俺は、お前のことを高校になるまで知らなかった。でも俺が七つの時の誕生日パーティーに来てたんだよな? 俺は覚えてないけど」


 にっこり笑ってくれる葵は、それを使わずに答えてくれている。


「……断ってきた、らしいんだ」

「…………」

「葵? お前は何度縁談を持ちかけてきて、何度断ってきたか知ってるんだろう? それにいつ、それを父さんが承諾したのかも」

「……使う?」

「いや、多分答えはイエスだろうから使わない」

「そっか」

「だが、ここで二つ使う」

「はい??」

「だから一回だけ、イエスかノー以外で答えてくれ」

「それってどういう」

「父さんが断った理由。それと承諾した理由を、お前は知ってるだろうから教えて欲しい」


 その後すぐ、「あ、あと、いつ承諾したのかも教えてくれ」と滑り込む。葵が『もう一つ聞くことあるでしょうが』って顔をしたから。


「二つじゃダメだな。三つだ。それなら答えてあげる」


 葵は、部屋の扉の方へと一瞬視線を流した。


「……わかった。今日はそれで勘弁してやる」

「いやわたしが主導権持ってるからね。アキラくんたどたどじゃん」

「もう最初の質問してからパニックになったからしょうがない」

「あ。そうですか……」

「だから三つ使うから、教えて欲しい」


 真っ直ぐに見つめると、葵はにっこり笑った。


「まず、シランさんが縁談を断った理由は……」

「(ごくり)」

「道明寺だから」

「え」

「シランさんが縁談を承諾した理由も道明寺だから」

「え」

「いつ承諾したのかは……」

「…………(ごくり)」


 こればかりは逃げられないだろうと、アキラは身構えた。


「桜が散って少し経ったくらい、かな」