すべてはあの花のために⑥


「さ。っ、さいってー……!」


 自分の胸を押さえてへたり込んだ葵は、しばらくは行くも何も、動けなかった。


「はあ。……もうっ。なんだっていうんだ……!」


『一番危険なのは奴だ! 危険者リストの一番上に書き直さないといけない!』と思いながら、葵は玄関を開け、鍵を掛ける。


「……ごめんね」


 扉に手をつけたあと、額もこつんとつける。
 それを、どれくらいしただろう。しばらくして起き上がった葵の顔には、仮面がバッチリ着いていた。


「(さてと。ヒナタくんは出て右を真っ直ぐって言ってたから……)」


 そう思って右の道を行こうとしたけれど。


「(あれ? でもさっきは、わたしの方を向いて言ってたから逆かな?)」


 そう思って葵は左の道を行こうとしたら、スマホに着信が入った。


「(ん? 誰?)」


 画面を見たら、ヒナタから電話が。


「……? はい。もしも」

『ふざけないでくれる。右って言ったよね?』

「はい。ですから右を行っ」

『そっち左。いいからさっさとこっち向いて』


 言われるがまま振り返ったら、遠くにヒナタらしき影が見えた。


『もう電話で案内するから、そのまま切らないで学校までついてきて』

「す、すみません……」


 葵は、急いで歩き出したヒナタの後を追いかけていった。


『そもそもさ、なんで右って言ったのに左に行くの? 意味わかんないんだけど』

「ご、ごめんなさい……」


 説教を受けながらも、後ろを時々振り返ってくれるヒナタのやさしさに、葵は嬉しくなって頬が緩む。


『ニヤニヤしないでよ、きも』

「(な。なんでわかるの……)」