「さ。っ、さいってー……!」
自分の胸を押さえてへたり込んだ葵は、しばらくは行くも何も、動けなかった。
「はあ。……もうっ。なんだっていうんだ……!」
『一番危険なのは奴だ! 危険者リストの一番上に書き直さないといけない!』と思いながら、葵は玄関を開け、鍵を掛ける。
「……ごめんね」
扉に手をつけたあと、額もこつんとつける。
それを、どれくらいしただろう。しばらくして起き上がった葵の顔には、仮面がバッチリ着いていた。
「(さてと。ヒナタくんは出て右を真っ直ぐって言ってたから……)」
そう思って右の道を行こうとしたけれど。
「(あれ? でもさっきは、わたしの方を向いて言ってたから逆かな?)」
そう思って葵は左の道を行こうとしたら、スマホに着信が入った。
「(ん? 誰?)」
画面を見たら、ヒナタから電話が。
「……? はい。もしも」
『ふざけないでくれる。右って言ったよね?』
「はい。ですから右を行っ」
『そっち左。いいからさっさとこっち向いて』
言われるがまま振り返ったら、遠くにヒナタらしき影が見えた。
『もう電話で案内するから、そのまま切らないで学校までついてきて』
「す、すみません……」
葵は、急いで歩き出したヒナタの後を追いかけていった。
『そもそもさ、なんで右って言ったのに左に行くの? 意味わかんないんだけど』
「ご、ごめんなさい……」
説教を受けながらも、後ろを時々振り返ってくれるヒナタのやさしさに、葵は嬉しくなって頬が緩む。
『ニヤニヤしないでよ、きも』
「(な。なんでわかるの……)」



