すべてはあの花のために⑥


「はあああー……」


 ヒナタは大きなため息をついたあと、葵のことを思い切り抱き締めてあげる。


「……っ? ひな」

「ばーか」

「……!」

「ばーか。ばーか。バーカ。っ、ばか」


 葵が苦しくなるのだって構わない。


「……っ? どう。したのっ……?」

「……ばか」

「……ご、ごめん」

「いいよ? その代わりもうちょっと聞きたいんだけど」


 きっと今なら、話してくれる。


「言えなかったら言わなくていいからね?」

「……? うん……?」

「今はもう迎えがないのは何で?」

「……? 迎えが、来なくなったから……?」

「そっか。最初から呼んでなかったんだ」

「……!」

「はい次ー」


 硬くなった葵の体をほぐすように、ヒナタはとんとんと背中を叩いた。


「家帰って何してるの?」

「……『わたし』は、時々お父様たちに呼ばれる」

「呼ばれて、何するの?」

「……えっと……」

「言えない? 言いたくない?」

「……どっちでも、ない」

「……じゃあそのあとは? 他に何するの?」

「……? わたしは宿題したり」

「うん」

「漫画読んだりアニメ見たりみんなの写真が入ったアルバム鑑賞したり」

「う、うん」

「……今は、悲しいことしてる」

「……? 悲しいこと?」

「うん。……嫌われても、わたしがそうしたいから、してるの」

「……他は?」

「……? ご飯食べてお風呂入って、日記書いて寝るの」

「そうなんだ。日記って毎日?」

「……うん。捨てられてからずっと、書いてる」

「何書いてるの?」

「あったこと全部」

「全部?」

「そう。一言一句、違わず。……そうしないと、いけないから」

「……ふーん。それ見たい」

「……! だ、だめ……!」

「なんで?」

「は」

「は?」

「……恥ずかしい、からっ……」