「んっ?」
「しょうがない。特別にね」
でも唇に指を添えられたかと思った瞬間には、葵はふわりと笑っていた。
「アキラくん? わたしはアキラくんが『好き』だよ?」
アキラに口は開かせないように。
「アキラくんが『好き』。家に言われてるわけでも何でもないよ? 『わたし』が言ったんだもの」
指は彼の唇に止めたまま。
「返事、言えなくて。できなくてごめんね。でもきちんと『言葉にはした』からね」
そう言う葵にアキラは首を傾げる。
「今日帰ったら、カエデさんに聞いてみて? わたしの返事、もらってないかって」
「――!?」
そこまで言い切ってから、ゆっくりと葵は指を離した。
「あお」
「はい。大サービスで一つ目は終わりですっ!」
確かに大サービスだったかもしれないが、聞きたいことがあり過ぎて困った。
「……はあ。わかった。楓に聞いてみる」
「うん! そうしてくれたまえ!」
すっかり元の調子だ。もう何が何だかわからない。
「あーなんだ。もう余計パニックだ」
「へ?」
「もうそんなに悩まずに聞くことにするよ」
「え」
「はい二つ目。『いい縁談』が、俺にはよくわからない」
確かに道明寺は財閥だが、皇よりは地位は低いと思っていた。家同士の繋がりで言えば、皇側が得する理由が思い当たらないから。だから父さんは何度も縁談の話を断ったのかと思った。
「葵、道明寺は皇よりも地位が高いのか? 俺の記憶違いか?」
アキラはそっと、葵の髪を耳に掛けながら不満そうに聞く。
「答えはノーだ」
「……だよな」
余計わからなくなる。質問するごとに、普通なら解決するはずの回答に、モヤモヤが纏わり付いて仕方がない。
「アキラくん」
「ん? なんだ?」
葵はアキラの左胸をつんと突きながら小さく笑う。
「道明寺は、皇よりも地位は低いよ」
「……? ああ。ちゃんとわかったよ」
そう答えるアキラに、葵は眉を寄せながら笑った。それに少し違和感を感じたが、掴めないままあっという間に消えてしまった。
「……じゃあ、三つ目」
居心地の悪さを感じながら、アキラは続ける。
「これは父さんに聞いて始めて知ったから、ちゃんと聞いておきたいんだ」
「ん? はい。どうぞ?」
「さっきも言ったけど、父さんは何度も断ってきたらしいんだ」
「うん。そうだね」
「そう言うってことは、葵もそれは知ってるんだな」
「ふふ。一個使う?」
「いや、独り言だから気にするな」
危うく貴重な一個を取られてしまうところだったと、安堵の息を吐く。



