すべてはあの花のために⑥


「んっ?」

「しょうがない。特別にね」


 でも唇に指を添えられたかと思った瞬間には、葵はふわりと笑っていた。


「アキラくん? わたしはアキラくんが『好き』だよ?」


 アキラに口は開かせないように。


「アキラくんが『好き』。家に言われてるわけでも何でもないよ? 『わたし』が言ったんだもの」


 指は彼の唇に止めたまま。


「返事、言えなくて。できなくてごめんね。でもきちんと『言葉にはした』からね」


 そう言う葵にアキラは首を傾げる。


「今日帰ったら、カエデさんに聞いてみて? わたしの返事、もらってないかって」

「――!?」


 そこまで言い切ってから、ゆっくりと葵は指を離した。


「あお」

「はい。大サービスで一つ目は終わりですっ!」


 確かに大サービスだったかもしれないが、聞きたいことがあり過ぎて困った。


「……はあ。わかった。楓に聞いてみる」

「うん! そうしてくれたまえ!」


 すっかり元の調子だ。もう何が何だかわからない。


「あーなんだ。もう余計パニックだ」

「へ?」

「もうそんなに悩まずに聞くことにするよ」

「え」

「はい二つ目。『いい縁談』が、俺にはよくわからない」


 確かに道明寺は財閥だが、皇よりは地位は低いと思っていた。家同士の繋がりで言えば、皇側が得する理由が思い当たらないから。だから父さんは何度も縁談の話を断ったのかと思った。


「葵、道明寺は皇よりも地位が高いのか? 俺の記憶違いか?」


 アキラはそっと、葵の髪を耳に掛けながら不満そうに聞く。


「答えはノーだ」

「……だよな」


 余計わからなくなる。質問するごとに、普通なら解決するはずの回答に、モヤモヤが纏わり付いて仕方がない。


「アキラくん」

「ん? なんだ?」


 葵はアキラの左胸をつんと突きながら小さく笑う。


道明寺は(、、、、)、皇よりも地位は低いよ」

「……? ああ。ちゃんとわかったよ」


 そう答えるアキラに、葵は眉を寄せながら笑った。それに少し違和感を感じたが、掴めないままあっという間に消えてしまった。


「……じゃあ、三つ目」


 居心地の悪さを感じながら、アキラは続ける。


「これは父さんに聞いて始めて知ったから、ちゃんと聞いておきたいんだ」

「ん? はい。どうぞ?」

「さっきも言ったけど、父さんは何度も断ってきたらしいんだ」

「うん。そうだね」

「そう言うってことは、葵もそれは知ってるんだな」

「ふふ。一個使う?」

「いや、独り言だから気にするな」


 危うく貴重な一個を取られてしまうところだったと、安堵の息を吐く。