「わたしの名前は、『道明寺』じゃないんです」
ヒナタはじっと、葵の話を聞いていた。
「わたしが産まれたのは、ある暑い夏の日でした。若すぎる夫婦の間に生まれたわたしは、……異常な子供だったんです」
ぎゅっと、葵がヒナタの手を握る。
「異常に記憶力がよかったり、異常に頭がよかったり、異常に勘が、運動神経がよかったりしました。……でもそれが原因で、他でもないわたしが、仲の良かった両親を不仲にしてしまいました」
話すのが苦しいのか、葵は一旦区切って話をやめる。
でも、何も言わない。ただずっと、彼女のタイミングを待った。
「……お父さんが浮気しているのを、普通に話してしまったり、お母さんが夜遊びに出てるのも、言ってしまったりしました。幼かった頃のわたしは、勉強はできていても、人の気持ちとか常識とか、そんなことはよくわからなかったので……」
「それから……」と、葵は涙声になりそうなのを堪えながら話す。
「異常すぎるわたしは。実の両親にっ。捨てられました……」
ぽつぽつと、葵の目からは涙が零れはじめた。
「……海で。捨てられたのを拾ってくれた人が。いました。わたしにとって。とても大切な。たくさんのことを教えてくれた人たちです」
ヒナタは、苦しそうに眉根を寄せる葵の涙を拭ってやる。
「……でも。ある日。道明寺の。……今のお父様に。そこから。引き取られました。……っ。たくさんのお金と。引き替えに、ですっ」
「…………」
「でも。それで二人が幸せになれるなら。それでよかった。わたしを引き取ってくれたお父様も。とってもいい人だったから。後悔はしていませんでした。……っ。ある時。までは」
「…………」
「お父様も。お母様も。わたしの頭にしか。興味がなかったのでっ。……わたしは。家では駒なんです。お金なんですっ。そうとしか。思われてない。ただのっ。……道具なんですっ……」
葵はまた、つらそうにしながらヒナタに体を預けた。



