一瞬、葵が息をのんだ気がした。
「そんなことのために時間を使うのか君は」
「俺にとっては今、一番大切なことだ」
顔を上げる。それが言えただけで、心はスッキリした。
「葵から話を聞くんだ。俺が隠し事はよくないと思うんだ」
「……? ……何を隠してるの」
少し仮面の外れた葵は、不安そうに尋ねた。
「俺が、お前が消えるのをどうして知ってるのか、きちんと話しておこうと思って」
その話自体嫌なのか、葵は苦虫を噛み潰したような顔になる。
でもアキラは、きちんと歪みなどないようにと話しを切り出した。
「俺が知ったのは、2学期の初めだ」
「……え」
思っていた話と違ったのか、彼女は動揺しているようだった。「……もう、その頃から……?」と呟きながら、震える手で自分の腕を掴んでいる。
「お前、その時どこに行った?」
「え? どこにって……え。もし、かして……」
「お前が来るより先に、俺は理事長室にいたんだ」
「――!!」
驚きを隠せないでいる葵に、アキラは申し訳なく思いながらゆっくりと窓際へ立つ葵に近づいてた。葵はもう、逃げなかった。
「理事長に隠してもらって、お前の報告? を、聞いていたんだ」
「………」
「隠していて悪かった葵。俺はあの時からもう、お前に時間がないことも、消えてしまうことも知っていたんだ」
アキラは葵の片手をそっと取り、そこでもう一度頭を下げる。
「盗み聞くようなことをして、……悪かった」
もう逃がさないようにと、アキラは葵の手を握った。
すると、その手に何かが触れる。
「……え。葵……?」
「そっか。……そっかー」
目の前の彼女にはもう、仮面なんてなかった。
「そうだったんだー。そっかそっかー」
自分の手に添えてくれる彼女の手は、とても温かかった。
「だからアキラくんは、『わたしから聞いた』って言った時、頷いたんだね」
「ん? ああ、お前が話してたのを、俺は隠れて聞いてたからな」
それはあの時も言ったはずだが……と思って首を傾げるけれど、葵は嬉しそうに「そっかそっか」と安堵した表情を浮かべるだけ。
「……許して、くれるのか?」
「え? ……うーん。どうしよっかな~?」
盗聴なんて最低なことをした。だから、許されるはずもないと思ってた。



