すべてはあの花のために⑥


「……よかった」

「え? ど、どうしたの……?」


 ぼそり、ヒナタから漏れる。


「母さんのこと。もう隠してあげなくていいんだなって」

「…………」

「オレがしてたのは間違いだから。でも、子供のオレには、母さんを手放すことも、勝手に母さんを手放した父さんのとこに戻るのも。一人になるのも嫌だったから……」

「…………」

「ちゃんと名前も呼んでもらえた。……だから、ありがとう」

「……っ、わたしは何も……」

「まあご飯食べよ? 折角あんたが美味しいの作ってくれたんだから」

「いや、ぶち込んだだけだけど……」

「これぞ男の料理?」

「そ、そうだね……」


 それからは、そんなどうでもいい話をした。


「……お野菜。おいしい……」

「そ? 作ってくれた農家さんに感謝だね」


 ずっとは続かなくて静かになったりもしたけど、それでもその沈黙が嫌なんてことはなくて、やっぱりどこか居心地がよかった。
 そして時刻は、あっという間に22時半を回る。


「ひ、……悪魔くーん! これはどこに置けばいい?」

「あー。それはテレビの横の棚」

「はーい」

「ガラス割れてないとか奇跡なんだけど。母さんあんなに暴れたのに」


 鍋を腹いっぱい食べ終わった葵たちは、片付けをした後、食後の運動と称してぐちゃぐちゃになった部屋の片付け中。


「……片付けしながらでいいから、聞いといて欲しいんだけど」

「……? 何を?」

「オレの話」

「そ、それはちゃんと正座をして耳かっぽじって聞かないと」

「いやいいから。これは、助けてくれたお礼とでも思っといて」

「だ、だからわたしは……」

「でも、助けるって言ったじゃん」

「……それは、だって……」

「じゃあ聞いてくれないんだ。折角このオレが話してあげようとしてんのに」

「……片付けしながらがいいの……?」

「うん。そうしてくれた方がオレも話しやすい」


 渋々頷いた葵は、ヒナタに視線を向けないよう、耳だけ彼の話に傾けた。



「オレとハルナはさ、双子だけど産まれた日は違うんだ」


 そして彼は、床に散らばった植木の土を掃除しながら話し始めた。