「……よかった」
「え? ど、どうしたの……?」
ぼそり、ヒナタから漏れる。
「母さんのこと。もう隠してあげなくていいんだなって」
「…………」
「オレがしてたのは間違いだから。でも、子供のオレには、母さんを手放すことも、勝手に母さんを手放した父さんのとこに戻るのも。一人になるのも嫌だったから……」
「…………」
「ちゃんと名前も呼んでもらえた。……だから、ありがとう」
「……っ、わたしは何も……」
「まあご飯食べよ? 折角あんたが美味しいの作ってくれたんだから」
「いや、ぶち込んだだけだけど……」
「これぞ男の料理?」
「そ、そうだね……」
それからは、そんなどうでもいい話をした。
「……お野菜。おいしい……」
「そ? 作ってくれた農家さんに感謝だね」
ずっとは続かなくて静かになったりもしたけど、それでもその沈黙が嫌なんてことはなくて、やっぱりどこか居心地がよかった。
そして時刻は、あっという間に22時半を回る。
「ひ、……悪魔くーん! これはどこに置けばいい?」
「あー。それはテレビの横の棚」
「はーい」
「ガラス割れてないとか奇跡なんだけど。母さんあんなに暴れたのに」
鍋を腹いっぱい食べ終わった葵たちは、片付けをした後、食後の運動と称してぐちゃぐちゃになった部屋の片付け中。
「……片付けしながらでいいから、聞いといて欲しいんだけど」
「……? 何を?」
「オレの話」
「そ、それはちゃんと正座をして耳かっぽじって聞かないと」
「いやいいから。これは、助けてくれたお礼とでも思っといて」
「だ、だからわたしは……」
「でも、助けるって言ったじゃん」
「……それは、だって……」
「じゃあ聞いてくれないんだ。折角このオレが話してあげようとしてんのに」
「……片付けしながらがいいの……?」
「うん。そうしてくれた方がオレも話しやすい」
渋々頷いた葵は、ヒナタに視線を向けないよう、耳だけ彼の話に傾けた。
「オレとハルナはさ、双子だけど産まれた日は違うんだ」
そして彼は、床に散らばった植木の土を掃除しながら話し始めた。



