すべてはあの花のために⑥


「……温まる、か……」


 葵は脱衣所で服を脱ぎ浴室へ。


「あ。お湯溜まってる……」


 冷たくなった手で蛇口を捻る。


「……全然。わかんなかった……」


 自分が冷たくなってたなんて。


「今までは、ちゃんとわかってた。その後倒れたりしたけど……」


 倒れてた。その後は冷たくなった手を押さえてた。でも今は……。


「……わからなく、なっちゃったっ……」


 自分の運命が刻一刻と迫ってきているのをひしひしと感じながら、沁みる傷口を押さえる。しばらくの間、浴槽から出る気にもなれなかった。
 それでも気怠い体を動かし浴室から出ると、スウェット生地のパジャマとタオルが置いてあった。


「(……兄ちゃんは一声掛けてくれたぞ)」


 まさかのガッチンしてたらどうするつもりだったのか。
 リビングへと戻ると、ヒナタが散らばった部屋の片付けをしていた。


「あ。ちゃんと温まった?」

「うん! ばっちりだ! リンゴみたいに真っ赤っかだよ~」

「それじゃあ鍋の準備する?」


 それから二人で台所に立って、並んで支度をした。


「あんた料理できたんだね」

「まあね! こんなんだけどね!」

「ふーん。それじゃああれして? これも。それから……」

「おう! 任せて!」


 葵はヒナタに指示通りに支度を進めた。


「まあ鍋だし。切ってぶち込めばそれで良し」

「そ、そうだけどね……」


 結局のところ、ヒナタは立ってただけで、葵が全部準備した。


「(……あれ? 一緒に準備するはずだったのに、扱き使われてただけじゃ)」

「お友達度UP頑張ってー」

「う、うん! 頑張る!」


 あまりの扱いやすさに、葵の将来が心配になるヒナタであった。


「お鍋~お鍋~」

「鍋好きなの?」

「ううん! 久し振り!」

「……そうなの?」

「そうそう! ……昔はね、一緒に食べてたことあったんだけどね」

「……今は?」

「今、わたしは一緒に食事をさせてくれないから」

「……そうなんだ」

「ひなっ、……悪魔くんは?」

「……オレも、久し振りかな」

「そうなんだ? どうして?」

「オレも家で一緒にご飯、食べられなかったから」

「……そっか」

「うん」


 ……あれ? おかしいぞ? あんなにテンション高かったはずなのに落ち込んじゃった!!