「約束」
「っ、へ……?」
ぼそりと、そう言うヒナタは葵に背を向けていたけれど。
「あんたに時間、あげる約束だったから」
「……!」
『言いたいことがあるの。だから、あとでわたしに時間をくれたら嬉しい』
もう一度葵に、仲直りのチャンスをくれたんだ。
「……っ、ありがとうございます! ひ、……悪魔くん!」
「はあ。……で? あんた大きさどれくらい?」
「サイズですか? SでもMでも、なんならLでもわたしは構わな」
「胸」
「……すみません。もう一度お願いします」
「だから胸だって。何カップかって聞いて」
「そんなこと聞いてくるんじゃなーい!」
堪らずヒナタの横っ腹にグーパンチ。
「なっ、何聞いてるんですか変態!」
「だったらあんた、今日下着なしでうろうろするようになるよ、人ん家で」
「今着てるのを着けます!」
「大丈夫だって。新品あるから。オレ間違えてサイズ大きいの買ってきたりしてたし」
「え。ひ、……悪魔くんにはそんな趣味が」
「母さん買えないでしょ。わかれよそれくらい」
彼はどんな顔をしてそんなものを買っていたのだろう……。
「いや、ちょっと町歩いてるお姉さんに声掛けて買ってもらったから、オレ別に店入ってないし」
「(美少年ってだけで、何でも許される時代が怖い……)」
「何? 言わないんならオレが確かめてあげようか」
「……!? ばっ、バカなこと言わないで!」
「本気だけど」
「余計悪い……! って……!? ちょ、ちょっと待って……!」
今度は容赦なく詰め寄られ、浴室のガラス戸に葵の背中がぴたりとくっつく。
「さて、どっちにしますか?」
「~~……っ」
だから、今着けてる下着でいいって言ってんのに! サイズ言わないと襲って来る気満々だし!
「…………み。みみ。かして」
「ん? ……これでいい?」
目線を合わせるように屈んでくれる彼の横顔は、とても楽しげだった。
「だ、誰にも言わない……?」
「言わない言わない(言ったら言ったで面白そうだけど)」
葵は「じゃ、じゃあ……」と、ヒナタの耳に手を添えて答えた。



