すべてはあの花のために⑥


「約束」

「っ、へ……?」


 ぼそりと、そう言うヒナタは葵に背を向けていたけれど。


「あんたに時間、あげる約束だったから」

「……!」


『言いたいことがあるの。だから、あとでわたしに時間をくれたら嬉しい』


 もう一度葵に、仲直りのチャンスをくれたんだ。


「……っ、ありがとうございます! ひ、……悪魔くん!」

「はあ。……で? あんた大きさどれくらい?」

「サイズですか? SでもMでも、なんならLでもわたしは構わな」

「胸」

「……すみません。もう一度お願いします」

「だから胸だって。何カップかって聞いて」

「そんなこと聞いてくるんじゃなーい!」


 堪らずヒナタの横っ腹にグーパンチ。


「なっ、何聞いてるんですか変態!」

「だったらあんた、今日下着なしでうろうろするようになるよ、人ん家で」

「今着てるのを着けます!」

「大丈夫だって。新品あるから。オレ間違えてサイズ大きいの買ってきたりしてたし」

「え。ひ、……悪魔くんにはそんな趣味が」

「母さん買えないでしょ。わかれよそれくらい」


 彼はどんな顔をしてそんなものを買っていたのだろう……。


「いや、ちょっと町歩いてるお姉さんに声掛けて買ってもらったから、オレ別に店入ってないし」

「(美少年ってだけで、何でも許される時代が怖い……)」

「何? 言わないんならオレが確かめてあげようか」

「……!? ばっ、バカなこと言わないで!」

「本気だけど」

「余計悪い……! って……!? ちょ、ちょっと待って……!」


 今度は容赦なく詰め寄られ、浴室のガラス戸に葵の背中がぴたりとくっつく。


「さて、どっちにしますか?」

「~~……っ」


 だから、今着けてる下着でいいって言ってんのに! サイズ言わないと襲って来る気満々だし!


「…………み。みみ。かして」

「ん? ……これでいい?」


 目線を合わせるように屈んでくれる彼の横顔は、とても楽しげだった。


「だ、誰にも言わない……?」

「言わない言わない(言ったら言ったで面白そうだけど)」


 葵は「じゃ、じゃあ……」と、ヒナタの耳に手を添えて答えた。