すべてはあの花のために⑥


「そんな感じだ」

「た、大変だったねアキラくん……」


「父よ、脱ぎっぱはよくないぞ」と言う葵に「そうなんだ」と、アキラは肩を落とした。結構疲れたのは事実だから。


「……五つしか、教えてくれなかったんだ。葵」

「そうみたいだね」


 葵は窓に頬をつけていた。まるで、何かを焦がれるように。


「さっき言ったこと、覚えてるか」

「……イエスかノー?」

「そうだ」

「……どうぞ?」


 窓から視線が戻ってくる。葵の顔には、完璧な仮面が着いていた。


「っ、……それを、着けるのか」

「ん? 何のことかな?」


 そう言う葵は、やっぱり微笑んでいた。


「……わかった」


 アキラは質問できるだけいいと妥協したけれど、「でも」と葵が微笑みながら付け足す。


「答えるのはその五つに関してだけだよ」

「――!? そんなのっ」

「きっともうすぐお父様たちの話も終わるだろう。このまま他のことも聞こうとして、時間が潰れるのを待つか、五つのことだけに関してでも答えを聞くのがいいのか。……君は間抜けな選択はしないと思っているんだけど?」


 自分を見下してくる葵からは、近寄らせない空気が漂っていた。


「(……舐められたもんだな、俺も)」


 皇の次期当主として、そんな愚かな選択するわけないじゃないか。


「時間は有効に使おう。その五つのことに関してなら答えられるんだったな」

「その時間もあまりなさそうだから、こちらも五つだけ答えることにするよ」


 どんどん幅が狭くなってるので、無駄に突っかかるのはやめることにした。


「質問もだが、その前に俺は、葵に話しておきたいことがあるんだ」

「…………」


 イエスかノーでしか答える気はないのか、葵は何も言わない。


「俺にとっては、質問よりも大事なことだ」


 アキラはそう言って立ち上がり、頭を下げた。


「え? ……あきら、くん……?」

「葵。この間は悪かった」