すべてはあの花のために⑥


「わかばさんっ。言ったはずです。わたしなら好きにしていいって」


 そうはさせて堪るかと、起き上がった葵がドンとヒナタを突き飛ばす。


「……? あおいちゃん……?」

「っ、あんた。いい加減に」

「君は黙ってなさい!!」


 吹っ飛んだ彼の方は見ないまま、ただ大きな声で叱りつけた。


「わかばさん。……ほら。殺したいならわたしをどうぞ」

「……?」

「わかばさん。なんでひ、……彼がはるなさんを殺したんですか」

「んー? だってー、あの子のせいだもん」

「そうですか? でもあなたは知っているんじゃないんですか?」

「なにをー?」


 葵は、そっとワカバの肩に触れる。


「あなたは事故現場にいたはずです。彼とハルナさんと三人で。……本当に彼が殺しましたか? 違いますよね。殺したのはあくまでもその運転手だ。現実を受け入れられないからって、彼を殺していいことにはなりませんっ……!」

「だって。……だって」


 ――……だって、本当は……。


「……彼に突っ込んできそうだったんですよね。その車が」


 ふらふらと、ワカバの体が左右に揺れている。


「それをハルナさんが庇ったのでしょう? よく気がつく人だったんだもの。大事な双子の弟を、助けたに違いありません」

「ふたご。ふたご……」

「大事な弟を守れて、ハルナさんは誇りだったと思います! それを家族の、母親のあなたが! きちんと彼女がいたことを、彼の存在を! ちゃんと覚えて、守っていってあげないといけない!」

「はは。おや。ははおや……」

「ハルナさんの事故のことが危険なんだって、あなたも知ったはずだ! トウセイさんだけに負担を掛けまいと、自分も支えていくと、そうあなたは言ったんですか……!?」

「ささえ。……い。て、ない……」

「そんな人が、あなたのことを急に嫌いになりますか……!? 危険だから。危ないから。大切なあなただから、一番に守ってあげたいって、この不器用の天然呆け男はそう言ってたんですよ……!」

「てんねん。ぼけ……」

「(いや、そこは拾わなくていいところなんだが……)」

「あなただって言ったらよかったんです。力になるって。支えるって。みんなでハルナさんのことを大切に思ってあげようって。そう言ったらよかったんです! それなのにい……なんなんだこの家族はッ!」