「わかばさんっ。言ったはずです。わたしなら好きにしていいって」
そうはさせて堪るかと、起き上がった葵がドンとヒナタを突き飛ばす。
「……? あおいちゃん……?」
「っ、あんた。いい加減に」
「君は黙ってなさい!!」
吹っ飛んだ彼の方は見ないまま、ただ大きな声で叱りつけた。
「わかばさん。……ほら。殺したいならわたしをどうぞ」
「……?」
「わかばさん。なんでひ、……彼がはるなさんを殺したんですか」
「んー? だってー、あの子のせいだもん」
「そうですか? でもあなたは知っているんじゃないんですか?」
「なにをー?」
葵は、そっとワカバの肩に触れる。
「あなたは事故現場にいたはずです。彼とハルナさんと三人で。……本当に彼が殺しましたか? 違いますよね。殺したのはあくまでもその運転手だ。現実を受け入れられないからって、彼を殺していいことにはなりませんっ……!」
「だって。……だって」
――……だって、本当は……。
「……彼に突っ込んできそうだったんですよね。その車が」
ふらふらと、ワカバの体が左右に揺れている。
「それをハルナさんが庇ったのでしょう? よく気がつく人だったんだもの。大事な双子の弟を、助けたに違いありません」
「ふたご。ふたご……」
「大事な弟を守れて、ハルナさんは誇りだったと思います! それを家族の、母親のあなたが! きちんと彼女がいたことを、彼の存在を! ちゃんと覚えて、守っていってあげないといけない!」
「はは。おや。ははおや……」
「ハルナさんの事故のことが危険なんだって、あなたも知ったはずだ! トウセイさんだけに負担を掛けまいと、自分も支えていくと、そうあなたは言ったんですか……!?」
「ささえ。……い。て、ない……」
「そんな人が、あなたのことを急に嫌いになりますか……!? 危険だから。危ないから。大切なあなただから、一番に守ってあげたいって、この不器用の天然呆け男はそう言ってたんですよ……!」
「てんねん。ぼけ……」
「(いや、そこは拾わなくていいところなんだが……)」
「あなただって言ったらよかったんです。力になるって。支えるって。みんなでハルナさんのことを大切に思ってあげようって。そう言ったらよかったんです! それなのにい……なんなんだこの家族はッ!」



