すべてはあの花のために⑥


 ワカバの手が、葵の首を掴んだ。


「葵……!」
「「――!!」」


 それでも葵はみんなを制して、こちらへ来させなかった。


「ぅっ、くっ。わっ、か、……さ」

「その子はねー。はるちゃんを殺しちゃったんだー」


 ワカバの指が、葵の首をゆっくり絞めにかかる。


「そ、れはっ。……ちがいます!」

「いいえー? 違わないわー? だって、あの子のせいではるちゃんは死んだんだものー」

「いいえっ! わかばさんちがうんです! あなたの大切なっ。むすめが。……むすこが! そんなことをするわけがない!!」

「しないと信じてたのにねー。殺しちゃうんだもんねー」

「ちがっ。……っく、はっ」

「わたしの大好きな大好きなはるちゃんがね~? あおいちゃん。死んじゃったんだー。犯人なんてどうでもいいんだー。だって殺したのはわたしの大好きな息子だもの」

「っは。……わ、かば、……さ……」

「だったらわたしもー。その子を殺しちゃったらいいんだって思ったんだー。だからもう、名前なんて知らないわー? あおいちゃんはあ、はるちゃんのお友だちになりたいんだったわよねー」

「……わ。かっ……」

「あの子はねー、ここにはいないんだー。だからあ、わたしが連れて行ってあげるねー?」


 ワカバの指が、葵の首にめり込んでいく。


「……っ!? 若葉! やめろ!」

「葵ッ!」


 意識が遠退く瞬間、一気に酸素が肺まで送り込まれてきて、思わず噎せ込んだ。


「……母さん。やめて」

「……? はるちゃん?」

「っけほっ。……はっ、はっ。はあ。はあ……」


 間に入ったヒナタが、ワカバの腕を掴んでいた。


「はる、ちゃん……?」

「母さん。もうやめよ?」

「なにを?」

「お薬」


 ツバサとトウセイは息をのんだ。衝撃に、二人は立っていられなくなる。


「なんでー? あれがないと、はるちゃんを殺した息子、思い出しちゃうんだもん」

「……だったら、今ここで殺してよ」

「は!? おい! 日向!」

「やめろ! 日向! 若葉!」

「……ひ、なた……?」

「そうだよ母さん。オレがハルナを殺したんだ。だから、殺す相手間違ってる」

「……そう。ひなた。……そう。あなたが、ひなた……」


 ヒナタの首へ、ワカバの手が伸ばされる。


「うん。それでいいよ。……もう。オレも解放して?」

「……ひなた。……ひなた……。……ひなた。ひなた……」

「……最後にオレの名前。思い出してくれてありがとう」


 名前を呟くワカバの指先が、ヒナタの首へと伸ばされた。