ワカバの手が、葵の首を掴んだ。
「葵……!」
「「――!!」」
それでも葵はみんなを制して、こちらへ来させなかった。
「ぅっ、くっ。わっ、か、……さ」
「その子はねー。はるちゃんを殺しちゃったんだー」
ワカバの指が、葵の首をゆっくり絞めにかかる。
「そ、れはっ。……ちがいます!」
「いいえー? 違わないわー? だって、あの子のせいではるちゃんは死んだんだものー」
「いいえっ! わかばさんちがうんです! あなたの大切なっ。むすめが。……むすこが! そんなことをするわけがない!!」
「しないと信じてたのにねー。殺しちゃうんだもんねー」
「ちがっ。……っく、はっ」
「わたしの大好きな大好きなはるちゃんがね~? あおいちゃん。死んじゃったんだー。犯人なんてどうでもいいんだー。だって殺したのはわたしの大好きな息子だもの」
「っは。……わ、かば、……さ……」
「だったらわたしもー。その子を殺しちゃったらいいんだって思ったんだー。だからもう、名前なんて知らないわー? あおいちゃんはあ、はるちゃんのお友だちになりたいんだったわよねー」
「……わ。かっ……」
「あの子はねー、ここにはいないんだー。だからあ、わたしが連れて行ってあげるねー?」
ワカバの指が、葵の首にめり込んでいく。
「……っ!? 若葉! やめろ!」
「葵ッ!」
意識が遠退く瞬間、一気に酸素が肺まで送り込まれてきて、思わず噎せ込んだ。
「……母さん。やめて」
「……? はるちゃん?」
「っけほっ。……はっ、はっ。はあ。はあ……」
間に入ったヒナタが、ワカバの腕を掴んでいた。
「はる、ちゃん……?」
「母さん。もうやめよ?」
「なにを?」
「お薬」
ツバサとトウセイは息をのんだ。衝撃に、二人は立っていられなくなる。
「なんでー? あれがないと、はるちゃんを殺した息子、思い出しちゃうんだもん」
「……だったら、今ここで殺してよ」
「は!? おい! 日向!」
「やめろ! 日向! 若葉!」
「……ひ、なた……?」
「そうだよ母さん。オレがハルナを殺したんだ。だから、殺す相手間違ってる」
「……そう。ひなた。……そう。あなたが、ひなた……」
ヒナタの首へ、ワカバの手が伸ばされる。
「うん。それでいいよ。……もう。オレも解放して?」
「……ひなた。……ひなた……。……ひなた。ひなた……」
「……最後にオレの名前。思い出してくれてありがとう」
名前を呟くワカバの指先が、ヒナタの首へと伸ばされた。



