すべてはあの花のために⑥


 アキラがそう言うのが早いか遅いか、シランはさっさと立ち上がって服を着替え始めた。


「なんだよー。そんなに俺の着替えが見たいの?」

「そんな趣味はない」


 でも脱ぎ始めている父を凝視してるので、端から見ればそう思われるのは仕方がないかもしれないが。


「さっき言っただろう。以上だよ」

「いや、詳しく話すって言っただろうが」

「あ。口悪ーい」

「おい親父。いい加減にしろよ」

「親父!? そんなことを教えた覚えは――……ああそうか、楓ね」

「いや、違う。今無性に腹が立ってるってことだ」

「え? なんで?」

「は? 逆にどうしてここで終われると思ってるんだ」


 パーティーの時『説明をする』と言っていた。
 こんなのが説明の内に入るかと、アキラはシランを睨み付けているが、父はそんなものもさらりと躱してしまう。


「だってお前、さっき言ったじゃないか」

「は? 何を?」


 いつこんなに詰め寄ってきたのか、父は自分の目の前に来ていて、頬を突いてくる。


「ちゃんとあの時話せばよかったんだ。人を介しちゃいけないんだなって、そう思ったんだって」

「……だから?」

「『人を介しちゃいけない』って『ちゃんと思えた』んだろ? だったら直接本人に聞けばいい」


 突いてきてはいるが、顔は至って真剣そのもので、こんな顔久し振りに見た。鋭い空気に、体が上手く動かせない。
 そんなアキラに、シランは小さくやっぱり申し訳なさそうに笑って、その空気を断ち切る。


「すまんな秋蘭。これは『話せないこと』だ」


 どこかで聞いた言い回しに、アキラは目を見開く。


「……父さんは、知っているのか……?」


 でも、おかしい。確かにあの時、兄が言った中に父の名はなかったのに。


「まあ、少なくともお前よりは知ってたな」

「――!? ……どういう、ことだ」


 アキラは父を睨み付けるも、父は呆れたように笑うだけ。


「ほら秋蘭。人を介さないんだろう? ちゃんと葵ちゃんに聞きなさい」

「いつから知ってるんだ……!」


 子供のように、駄々をこねるようなアキラの頭をぽんと叩くだけ。


「知っていたことももちろんある。でも知ったこともある。それだけだ」

「……は? 結局のところ知ってるんじゃないのか?」


 シランはただ、やさしい表情で笑うだけ。


「明日、葵ちゃんに聞けるといいな」


 もう話す気はないようで、さっさと部屋から出て行った。


「いや、脱ぎっぱ……」


「はあー……」とため息をつき、その後アキラは、父の脱ぎ散らかした服を回収したのだった。


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