「え。どういう……」
ツバサの疑問に答えることなく、トウセイはただ少しだけ眉を顰めるだけ。本当に、わからない程度に。
「……きっとね、トウセイさんは女の姿の君を見るのが、ただつらかったんだよ」
「でも、そんなこと一言も……ていうか、どうしてお前がそんなこと知って」
「お得意の推測だからねー。間違っていたらすみませんトウセイさん」
それでもトウセイが返すのは沈黙だけだった。
「ツバサくんは、ハルナさんを覚えていて欲しかったから、あんな恰好をしていたんだよね?」
「え。まあ、最初はそうだったけど……」
「トウセイさんはね、多分ハルナさんを忘れたことなんてなかったんだよ」
「え」
「そうですよねトウセイさん。そろそろ喋っていいんじゃないですか?」
それでも、まだ彼は口を開こうとしない。
口が堅いことは、決して悪いことではない。でも、家族との間にそれは必要か否か。
「あなたが言うつもりがないのであれば、わたしから直接ツバサくんにお話ししましょう」
「だ、だから。どうしてお前が知って――」
彼の言葉を遮るように、葵はツバサの前に指を一本静かに立てる。
「トウセイさんはずっと、あの事件のことを調べているんだよ」
ツバサは、はっと息をのんだ。
「仕事の帰りが遅いのも、寝るのが遅いのも、仕事が休みの日も。トウセイさんは、何か手がかりがないか、あの事件のことを調べている。……ツバサくんにキツく当たったのは、君を巻き込みたくなかったから」
それだけ、危険な事件だった。だから大切な君を、家族を巻き込みたくなかった。守りたかった。
「喧嘩をしたのは恐らくわざとでしょう。トウセイさんの立場上、きっと入ってくる情報も多かった。……そして、それが危険だとわかった。知ってしまった。だからわざと君にきつく当たったんだ」
「………………」
「国務大臣、なれそうですか」
葵の言葉に、ようやくトウセイが目を見開いて答えた。
「言ったはずだ。君に言われずとも、初めからそのつもりだ」
その瞳は政治家ではなく、みんなの『お父さん』の瞳だった。
「ツバサくんどうかな。背中、押してあげられた?」
「……十分すぎるよ」
俯いているツバサの頭を、ぽんぽんと撫でてあげた。
「でもまだ終わりじゃない。わかってるよね」
「ああ。もちろんだ」
ゆっくりと上がった視線からは、強い意志が伝わってくる。
そんな様子のツバサに、葵はにっこりと笑って尋ねた。



