凜とした声が、トウセイの声を遮る。
「自分の力を、愛する人のためだけに使うことにしたんです。まあ、いろいろ教えてたりはしましたけど、弟子なんかは取ってなかったですね。きっと今頃、畑仕事でもしてるんじゃないですかねー」
「……どうして、お前がそんなことを知っている」
窓の向こうに見える山を見つめていた視線を、ゆっくりとトウセイに戻す。
「名は『ズイコウ』。でも、こっちの方が有名かな?」
“――華咲く沈丁花”
「それが嘗て、武道界の大会を総嘗めした方の名です」
「だから。何故お前が、その名を知っている……!」
「申し遅れました。まだまだきちんとご挨拶できてなかったみたいで」
葵はにっこり笑って、竹刀を前に携える。
「改めまして九条冬青さん。わたしの名は『あおい』と申します。……嘗てあなたが大敗を喫したした瑞香の、最初で最後の弟子です」
二人は、言葉を失っていたけれど、葵は先を急ぎ慌てて二人を座らせた。
「時間がないので申し訳ないです。ツバサくんがあなたにどんなことを言ったのかはわかりませんが、わたしの方からお話しさせてください」
「……はあ。わかった」
「あ。その前に、二つ目と三つ目。必ずすると約束してください」
「わかっている。約束は違えん」
「それでは。……トウセイさん。あなたはツバサくんの女の姿を見てどう思いましたか?」
「え? 何でそんなこと聞くんだよ」
「ツバサくんは黙ってなさい」
「はい……」
キリッと目で睨まれてしまったので、ツバサは小さく両膝を抱えた。
「今はこうしてツバサくんは、このままじゃダメだと思って女の姿をやめて、あなたに訴えかけてきたはずです」
トウセイは何も話そうとしなかった。ただ目を瞑って、葵の話を聞くだけ。反応も何もしないつもりなのだろう。
「(まあそんなのもぶっ壊してやりますよ。わたしを甘く見ては困りますからね!)」
葵はすっと息を吸って、吐いた。
「トウセイさん。……思い出すのがつらいんだって、一言そう言えばいいんです」
やさしい口調と微笑みを添えて。



