すべてはあの花のために⑥


 もぐもぐもぐ……。


「(……無言ですか)」


 どうやらこの二人、そもそも会話がないらしい。


「(まあツバサくんはぶん殴られたわけだし、やっぱり緊張してるんだろう。だから、それ以上踏み込めなくなった……)」


 大丈夫だ。背中、押してあげるから。


「(……いいや、押してやるじゃ済まないな。蹴っ飛ばしてやるよ、君の父さんの背中をっ)」


 結局無言で食事を終え、学校を休むことをキクに連絡。午前中はぼうっとしたり、ツバサの部屋を漁ったりしていたらあっと言う間にお昼になったので、またご飯を食べてから、みんなで道場へと向かった。


「今日は無理言ってすみません」

「いえいえいいんですよ。九条さんに使ってもらえるなら道場も喜びます」


 ここの道場の人とは昔から付き合いがあるからか、急だったにもかかわらず、葵たちのためだけに解放してくれた。


「あら女の子?」

「あ。はい。今日はご無理を言ってすみません」

「いえいえ。どうぞ? 道着も昨日息子さんに言われて準備してるから、それに着替えてね」

「え?」


 ツバサをちらりと見たら、そっぽを向いていた。


「(私服でするつもり満々だったんだけど……)」


 それならと、お言葉に甘えることに。


「(ほんと、そういうとこに気が回るんだから。……さっすが、お兄ちゃんだ)」


 クスリと笑って、葵とトウセイは道着に着替えた。


「え。……葵。まさかお前、それでやる気じゃ……」

「え? うん。そうですよ?」


 またトウセイはぷっつんしました。
 何でかというと、葵が袴しか履いてこなかったから。


「おま、……防具は? 流石にそれは着けろ。じゃないとやらせねえ」

「いや大丈夫ですよ。わたし強いんで?」

「その自信、叩き切ってやるっ!!」

「父さん落ち着け! 俺に任せろって!」

「いいえ? ツバサくん。わたしはこのスタイルでいいんです」

「絶対怪我させる」

「いや父さん! 女だから! 手は出すな!!」


 ツバサが大慌てで父を止めに入る。そんな大変そうなツバサを余所に、葵は大欠伸をしていた。


「あ。目薬入れるの忘れた。ちょっと差してきまーす」

「……チッ」

「と、父さん。ごめん。……ほんとごめん」


 流石のツバサも謝った▼