すべてはあの花のために⑥


 時刻は6時。


「……ぷはっ!」


 葵は洗面所で顔を洗って、眠気を覚ましていた。


「(なんとか昨日は出てこなかった。……まだ、大丈夫)」


 そっと、自分の胸に手を当てる。


「(でも、本当に最近天の声さんと全然話してない……)」


 天の声は、いわゆる『赤』のストッパーをしてくれていたのだろう。


「(出てこられないほどもう、ピンチなんだな……)」


 実のところ、これからどうなってしまうのかなんて、葵自身もわからない。知っているのは『赤』と……。


「(『赤』とはそういう話をしているらしい、アザミ様とエリカお母様だけ)」


 自分の居場所なんて、あの家にはない。


「(わたしにとっては、生徒会のみんなが。みんなの家族が。友達が。わたしの家族だ)」


 そんな人たちが苦しんでいるのならば、どんなことだってしよう。


「(それがたとえ、わたしを嫌う結果になったとしても)」


 そして自分が――消えることになったとしても。


 リビングで寛ごうと思ったら、あらびっくり。トウセイがすでに起きていて、日付が古い新聞に目を通していた。


「おはようございますトウセイさん」


 完全に無視。


「(なんだよう。昨日あれだけお説教しただろうに。まだ気にくわないのか、あなたは……)」


 そう思っていると、ちらりと彼がこちらを見たような気がした。


「……立っていないで、座ったらどうだ」

「(素直に話したいって言えばいいのに)」


 彼が不器用なのは、きっと父親のせいだ。
 葵はソファーに座っているトウセイから、ほんの少しだけ距離を取って座った。


「……道明寺の小娘が何の用だ」

「え。き、昨日お話ししましたよね?」


 トウセイは新聞を読むのをやめ、テレビをつけた。
 今日は月曜日だが、休むそう。だったら“仕事以外のこと”も休むのだろう。


「お前は、本当に道明寺の子か?」

「……そうですね。名前はそうなっています」


 そう返答をする葵に、トウセイの眉間に皺が寄る。


「……ただで勝負して欲しいと思っていない。そう言っていたな」

「はい。そうですね」


 淡々と答える葵に、トウセイの顔は険しいままだ。


「……一財閥の娘が、何故このような真似をする。財も地位もそこそこなら、こんなことするよりも余程、家のためになることをすればいいじゃないか」

「そうですね。恐らくはその考えが正しいと思います」


「でも」と、葵は続ける。


「あなたもご存じなのでしょう。ある程度は」