「それじゃ、この部屋使っていいから」
部屋数はたくさんあった。
「……ツバサくん」
でも葵が通された部屋は、何もなかった。
「ああ。……ここ、あいつの部屋。申し訳ないけどここ使って」
「……うん。ありがとう」
「じゃあ、なんかあったら突き当たりの左の部屋な」と、ツバサは部屋を出て行った。
「……別にね、何もないわけじゃないんだよ」
机だってベッドだって、家具は一式ちゃんと揃ってる。
「いたっていう存在が。意味が。消えちゃってる……」
葵はそっと、部屋の中の壁を触ったり、机を触ったりした。
「……今日は、寝られないからなあ」
だって日記を持ってきていない。
「……今日は、しっかりわたしがここを使ってあげよう! たくさんあなたを思い出を、残していくからね!」
その晩葵は一睡もせず、小さな声で自己紹介から始め、いろんな話を部屋にしてあげた。



