すべてはあの花のために⑥


「それじゃ、この部屋使っていいから」


 部屋数はたくさんあった。


「……ツバサくん」


 でも葵が通された部屋は、何もなかった。


「ああ。……ここ、あいつの部屋。申し訳ないけどここ使って」

「……うん。ありがとう」


「じゃあ、なんかあったら突き当たりの左の部屋な」と、ツバサは部屋を出て行った。


「……別にね、何もないわけじゃないんだよ」


 机だってベッドだって、家具は一式ちゃんと揃ってる。


「いたっていう存在が。意味が。消えちゃってる……」


葵はそっと、部屋の中の壁を触ったり、机を触ったりした。


「……今日は、寝られないからなあ」


 だって日記(あれ)を持ってきていない。


「……今日は、しっかりわたしがここを使ってあげよう! たくさんあなたを思い出を、残していくからね!」


 その晩葵は一睡もせず、小さな声で自己紹介から始め、いろんな話を部屋にしてあげた。