「父さん、もういいだろ」
「……ああ、そうだな」
皇家パーティー後。挨拶回りも終わり、片付けは家政婦たちに任せている。アキラとシランは、控え室を用意していたので、そこでタイを緩めながら二人でソファーに身を沈めた。
「つっかれたなー。久し振りにこんなことをすると、今日はよく寝られそうだ」
「いや父さん?」
「俺さ、小桜も亡くして記憶も無くして、お前にも楓にも、俺らを慕ってくれる奴にもすごい迷惑も心配も掛けて、申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ」
「(ダメだ。話し出したら止まらない)」
「でもあれを外して、少しずつ記憶が戻りだして。……怖くなった。やっぱり」
「父さん……」
「怖かったけど、お前も向き合ってくれたから、こうして戻ってよかったって、そう思えるんだ」
「………………」
「お前はどうだった? 記憶が無くなっていくのは怖かったか?」
「……はあ」
その話を、一体何回したと思っているのか。自分と向き合えて、自分からあれを外せた時、何度も、毎日、話してやったじゃないか。
アキラは少し眉を寄せ、でも頬を緩めながら答えた。
「俺は確かに、記憶が無くなっていくのがわかった時、すごく怖かった」
実際、彼女のことを少し忘れてしまった時は、本当に泣きそうなほどつらかった。
「でも俺は、母さんを巻き込んでしまったことを悔いてた。皇の奴らに言われたせいじゃない。俺は最初から、誰に言われるまでもなく自分を責めていた」
――自分を庇って、母は死んでしまったのだから。
「父さんにも、謝って済む問題じゃなかったから、どうすればいいのかわからなかった」
その時の自分の支えは兄だった。でもその兄も、ここからいなくなった。
「父さんがおかしくなって、シン兄もいなくなって、俺はもっと自分を責めた。俺がもっとあの時しっかりしてたら、母さんが死ぬことだって、父さんがおかしくなることだって、シン兄がいなくなることだってなかったのにって」
そう思っていた自分を説得してくれたのは、他でもない兄であり、兄を説得してくれたのは葵だ。
「自分は悪くないんだって。悪いのは俺を誘拐しようとした奴だって。きちんと考えを改めてくれたシン兄と葵に、俺は感謝してるんだ」
こうして自分の左耳がスッキリしてることも。目の前の父と話ができることも。もうないと、あの時までは思っていたのだから。



