すべてはあの花のために⑥


「すっごく甘いな、これ」

「え? うん。だっていちごミルクなかったから」

「甘過ぎて、どうしようかと思った」

「え? 嫌だった? 作り直そうか?」

「どうして、こんなに甘くしたんだ?」


 葵は沈黙を返すだけ。
 わかってる。聞いて欲しくないんだろう。でも、流石にこればかりは逃がさない。


「(どうして俺に『返事をしなかった』のか。『まだしない』のか。きちんと聞いてない)」


 アキラは甘すぎるミルクティーにもう一度口を付ける。


「……答えはイエスかノーだ」


 意図がわかったのか、葵は逃げるように立ち上がり、机へと向かっていく。


「葵。逃げるな」

「逃げてないよ? ただ、ちょっと見たくなっただけなの」

「何を――」


 そう思ってちらりと覗くと、引き出しから出てきたのは、真っ赤なハイビスカス。白い薔薇。そして、橙の薔薇。
 その花たちを、どこか愛おしげに、切なげに、悲しげに、苦しげに見つめる葵が、目の前から消えていきそうだった。


「っ、あ、おい」

「あ。ごめん。ちょっとあっちの世界に行ってた」

「あっち!?」

「ああ違う違う。一人の世界に入ってたってだけだから」


 一瞬慌てたけれど、いつもの“交信”をだろうと納得。
 葵はそのまま窓際へと進み、窓から見えない月を見ていた。アキラはそのままソファーに座ったまま、葵にゆっくりと話し出す。


「……俺、軽くパニックなんだ」

「そんな顔には見えないけど」

「これでもパニックだ」

「そ、そう……」


 至って普通の顔をしているだろう。でも葵は苦笑を浮かべていた。彼女なら、この暗い気持ちを察してくれると思った。


「葵、教えて欲しいんだ」

「アキラくんは、シランさんにどこまで話を聞いたのかな」


 淡々と聞いてくる葵は、やっぱりどこか一線を引いている感じがする。
 アキラは一度ため息をついて、昨日父に聞いたことを話した。


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