「すっごく甘いな、これ」
「え? うん。だっていちごミルクなかったから」
「甘過ぎて、どうしようかと思った」
「え? 嫌だった? 作り直そうか?」
「どうして、こんなに甘くしたんだ?」
葵は沈黙を返すだけ。
わかってる。聞いて欲しくないんだろう。でも、流石にこればかりは逃がさない。
「(どうして俺に『返事をしなかった』のか。『まだしない』のか。きちんと聞いてない)」
アキラは甘すぎるミルクティーにもう一度口を付ける。
「……答えはイエスかノーだ」
意図がわかったのか、葵は逃げるように立ち上がり、机へと向かっていく。
「葵。逃げるな」
「逃げてないよ? ただ、ちょっと見たくなっただけなの」
「何を――」
そう思ってちらりと覗くと、引き出しから出てきたのは、真っ赤なハイビスカス。白い薔薇。そして、橙の薔薇。
その花たちを、どこか愛おしげに、切なげに、悲しげに、苦しげに見つめる葵が、目の前から消えていきそうだった。
「っ、あ、おい」
「あ。ごめん。ちょっとあっちの世界に行ってた」
「あっち!?」
「ああ違う違う。一人の世界に入ってたってだけだから」
一瞬慌てたけれど、いつもの“交信”をだろうと納得。
葵はそのまま窓際へと進み、窓から見えない月を見ていた。アキラはそのままソファーに座ったまま、葵にゆっくりと話し出す。
「……俺、軽くパニックなんだ」
「そんな顔には見えないけど」
「これでもパニックだ」
「そ、そう……」
至って普通の顔をしているだろう。でも葵は苦笑を浮かべていた。彼女なら、この暗い気持ちを察してくれると思った。
「葵、教えて欲しいんだ」
「アキラくんは、シランさんにどこまで話を聞いたのかな」
淡々と聞いてくる葵は、やっぱりどこか一線を引いている感じがする。
アキラは一度ため息をついて、昨日父に聞いたことを話した。
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