車のところへ向かうと、スパスパと煙草を吸っていたキクが。校内は禁煙なんですけど。
「おー。ラブラブしてきたか、トーマ」
「いや、そんなこと一つもな」
「もうちょっとしたかったけどね!」
「そうかそうかー」
「いや、いらんこと吹き込まんでください」
「えー? さっき俺に泣きついてきたのに~?」
「ほー。泣いたのかお前さん」
「まさかのトーマさん登場に嫌すぎて勝手に涙が出てきました」
「え。嘘」
「それはそれは。大変だったな」
「はい。そうなんです。……なのでキク先生。ここにトーマさん置いて帰りましょう」
「させないからね?」
まさかトーマがいじられるなんて……と思って、キクはちらりトーマの顔を見るけど、嬉しそうに頬が緩んでいて、小さく笑みをこぼす。
「それじゃあ帰るかー」
葵は後部座席に乗らせてもらった。
「菊はチョコもらった?」
「あー。こいつからはもらったけどな。オレは一つでいいから」
「あ。普通にいいこと言いましたね」
どうやらキクは今日帰ったらキサがいるらしいので、その時にもらうようなのだけど……。
「キク先生? キサちゃんにトーマさんが泊まること言いました?」
「あ? 言ってないけど?」
「うっわ。絶対に『出てけ』って視線で殺される……」
まあ、今日ばっかりはしょうがないな。我慢だ。
「お前さんは、いっぱいチョコやったんだな」
「……はい。そう、ですね」
でも一つ、ちゃんと渡せなかった。
「仲直り、できたか?」
トーマは、運転中のキクの頭にスリッパで一発。まさか、彼も隠し持っていたとは。
「……はいっ! 大丈夫です!」
「葵ちゃん……」
「いたたた……。そうかそうか。それにしてもお前さん、そんなに厄除けと結婚運上げてどうすんだって言うくらい巻いてんな」
「え?」



