それから葵はキクに家まで送ってもらうことになった。もちろんトーマ付きで。
「トーマさん、一度教室に寄っても構いませんか?」
「もちろん」
葵は、朝置いたままだった鞄類を取りに行った。
「ここが葵ちゃんの教室?」
「はい。ちょっと待っててくださいね」
葵は自分の席へ移動した。
「……? トーマさん、どうかされたんですか?」
「一緒に授業受けたかったなあと」
「そんな無茶な……」
どうやら本当にそう思っているようで、教室をグルグルと回っていた。
「チョコはあいつらだけ? 渡したの」
「いえ。あとはみんなのご家族の方にもお世話になったので送ったのと、新しいお友達もできたのでその子にも。一緒に作ったんですチョコ」
「そっか。新しい友達ね」
「トーマさんのことも知ってましたよ? 美作柚子ちゃんって知りません?」
「あー聞いたことあるけど、あの頃紀紗にしか興味なかったから」
「そ、そうですか……」
極端すぎやしませんか。
「それだけ? 葵ちゃんのご家族の方には?」
「……はい。もちろん渡しますよ」
そう言って葵は、鞄をぎゅっと大事に抱えた。
「大切な、わたしの家族ですから」
「……そっか」
二人はきっと待っているであろう、キクの車が停まっている場所へと向かう。
「そういえばトーマさん、よく入れましたね。突っ込むの忘れてましたけど」
一応桜、セキュリティーは万全である。
「え? だって元桜の生徒だし?」
「え。まさかの顔パス?」
「ていうのは冗談で、先に菊と会ってたんだよ。だから、ちゃんと事務には許可入れてたし」
「そうなんですか」
「そうそう。それで、まだちょっとかかるって言われたから、葵ちゃんにチョコのお礼を言いたくて電話したら、まさかまだいると思ってなくて猛ダッシュだよねー」
「そ、そうですか……」
「会った瞬間さ、いろいろ言いたいことあったけど、そんなの吹き飛んじゃった」
「そうですね。いきなり抱きついてきましたもんね」
全く、ビックリしすぎて心臓止まるかと。
「嬉しすぎて、心臓止まるかと思った」
「(意図せず同じことを考えていたことは絶対に言うまい)」
「葵ちゃん。秋蘭なんかやめて俺にしなよ。一刻も早く、桐生葵になって欲しいんだけど?」
「絶対に嫌です」
「えー! なんで!」
そんなことしたら、本気で蕾のまま枯れますから▼
「(とか言えたらいいんだけど)」
シランは特別だった。
彼はあれを条件にしたけれど、あれで償えているとは到底思えない。
「(……早く。誰かわたしを呼んでくれ)」
何も、知らずに――――……。



