すべてはあの花のために⑥


 それから葵はキクに家まで送ってもらうことになった。もちろんトーマ付きで。


「トーマさん、一度教室に寄っても構いませんか?」

「もちろん」


 葵は、朝置いたままだった鞄類を取りに行った。


「ここが葵ちゃんの教室?」

「はい。ちょっと待っててくださいね」


 葵は自分の席へ移動した。


「……? トーマさん、どうかされたんですか?」

「一緒に授業受けたかったなあと」

「そんな無茶な……」


 どうやら本当にそう思っているようで、教室をグルグルと回っていた。


「チョコはあいつらだけ? 渡したの」

「いえ。あとはみんなのご家族の方にもお世話になったので送ったのと、新しいお友達もできたのでその子にも。一緒に作ったんですチョコ」

「そっか。新しい友達ね」

「トーマさんのことも知ってましたよ? 美作柚子ちゃんって知りません?」

「あー聞いたことあるけど、あの頃紀紗にしか興味なかったから」

「そ、そうですか……」


 極端すぎやしませんか。


「それだけ? 葵ちゃんのご家族の方には?」

「……はい。もちろん渡しますよ」


 そう言って葵は、鞄をぎゅっと大事に抱えた。


「大切な、わたしの家族ですから」

「……そっか」


 二人はきっと待っているであろう、キクの車が停まっている場所へと向かう。


「そういえばトーマさん、よく入れましたね。突っ込むの忘れてましたけど」


 一応桜、セキュリティーは万全である。


「え? だって元桜の生徒だし?」

「え。まさかの顔パス?」

「ていうのは冗談で、先に菊と会ってたんだよ。だから、ちゃんと事務には許可入れてたし」

「そうなんですか」

「そうそう。それで、まだちょっとかかるって言われたから、葵ちゃんにチョコのお礼を言いたくて電話したら、まさかまだいると思ってなくて猛ダッシュだよねー」

「そ、そうですか……」

「会った瞬間さ、いろいろ言いたいことあったけど、そんなの吹き飛んじゃった」

「そうですね。いきなり抱きついてきましたもんね」


 全く、ビックリしすぎて心臓止まるかと。


「嬉しすぎて、心臓止まるかと思った」

「(意図せず同じことを考えていたことは絶対に言うまい)」

「葵ちゃん。秋蘭なんかやめて俺にしなよ。一刻も早く、桐生葵になって欲しいんだけど?」

「絶対に嫌です」

「えー! なんで!」


 そんなことしたら、本気で蕾のまま枯れますから▼ 


「(とか言えたらいいんだけど)」


 シランは特別だった。
 彼はあれを条件にしたけれど、あれで償えているとは到底思えない。


「(……早く。誰かわたしを呼んでくれ)」


 何も、知らずに――――……。