すべてはあの花のために⑥


「あいつにとってはさ、本当にみんなが大切なんだよ」

「……? ……。知って、ます……」

「うん。でも、本当に異常なほどなんだ」


 そう言うトーマは、眉を寄せながら悲しそうに笑っていた。


「俺からは言えない。だから、それがどうしてなのかは二人から聞いてみて?」

「……はい。そうするつもりです」

「それと。あいつがキレること、そんなにないから」

「キサちゃんから、聞きました。だからそれだけわたしはヒナタくんに酷いことをしたって思って……」

「……ちゃんと、言って欲しかったんじゃないかなって思うよ」

「え……?」

「葵ちゃんの話聞いてて、アキとの結婚は嫌なのかなって思った」

「え。な、んで……」

「ん? 話してる顔がつらそうだったから」


 どうしてこうも、みんなして顔ですぐわかってしまうんだろう。ちゃんと、隠してるつもりなのに。


「だから、日向は言って欲しかったんだよ。つらいんだ。苦しいんだ。……助けて欲しい、って」

「……。言え、ません」

「ほら、やっぱり思ってるんでしょ?」

「……あっ」


 でも、トーマは何も言わずににっこり笑った。


「日向も、葵ちゃんに八つ当たりしただけだと思うよ?」

「……そんなこと、ありません」

「ううん。日向はみんなも大切だけど、葵ちゃんも大切なんだよ」

「……そうだと、いいです」


 納得しない葵に、トーマはこつんと額を当てる。


「そうだといいじゃなくてそうなの。日向は葵ちゃんのことを、一番に心配してるから」

「…………」

「……それに、もうすぐ誕生日が……」

「……?」

「ううん。何でもない。……ほら。今日はもう帰ろう? お家の方も心配してるから」

「……そう、ですね」


 ――きっと『帰ってこない気なんじゃないか』って、心配しているだろう。


「(……帰りますよ。だってわたしは、あなた方の駒なんだから)」


 彼のことも、このままにはしたくない。



「(……でも。こわい……)」


 一度拒否られたからか、彼にはなかなか近づけなかった。


「(カナデくんにも前、助けてもらったんだ。きっと大丈夫)」


 それに、目の前の彼にも。みんなに助けてもらってばかりだ。


「(でも、絶対にわたしが助けてやる)」


 彼を、……彼らを。必ず。

 葵の瞳に力が入ったのがわかったのか、トーマは小さく笑っていた。