「あいつにとってはさ、本当にみんなが大切なんだよ」
「……? ……。知って、ます……」
「うん。でも、本当に異常なほどなんだ」
そう言うトーマは、眉を寄せながら悲しそうに笑っていた。
「俺からは言えない。だから、それがどうしてなのかは二人から聞いてみて?」
「……はい。そうするつもりです」
「それと。あいつがキレること、そんなにないから」
「キサちゃんから、聞きました。だからそれだけわたしはヒナタくんに酷いことをしたって思って……」
「……ちゃんと、言って欲しかったんじゃないかなって思うよ」
「え……?」
「葵ちゃんの話聞いてて、アキとの結婚は嫌なのかなって思った」
「え。な、んで……」
「ん? 話してる顔がつらそうだったから」
どうしてこうも、みんなして顔ですぐわかってしまうんだろう。ちゃんと、隠してるつもりなのに。
「だから、日向は言って欲しかったんだよ。つらいんだ。苦しいんだ。……助けて欲しい、って」
「……。言え、ません」
「ほら、やっぱり思ってるんでしょ?」
「……あっ」
でも、トーマは何も言わずににっこり笑った。
「日向も、葵ちゃんに八つ当たりしただけだと思うよ?」
「……そんなこと、ありません」
「ううん。日向はみんなも大切だけど、葵ちゃんも大切なんだよ」
「……そうだと、いいです」
納得しない葵に、トーマはこつんと額を当てる。
「そうだといいじゃなくてそうなの。日向は葵ちゃんのことを、一番に心配してるから」
「…………」
「……それに、もうすぐ誕生日が……」
「……?」
「ううん。何でもない。……ほら。今日はもう帰ろう? お家の方も心配してるから」
「……そう、ですね」
――きっと『帰ってこない気なんじゃないか』って、心配しているだろう。
「(……帰りますよ。だってわたしは、あなた方の駒なんだから)」
彼のことも、このままにはしたくない。
「(……でも。こわい……)」
一度拒否られたからか、彼にはなかなか近づけなかった。
「(カナデくんにも前、助けてもらったんだ。きっと大丈夫)」
それに、目の前の彼にも。みんなに助けてもらってばかりだ。
「(でも、絶対にわたしが助けてやる)」
彼を、……彼らを。必ず。
葵の瞳に力が入ったのがわかったのか、トーマは小さく笑っていた。



