「……あお」
「アキラくんはこの部屋入ったことあるんだっけ?」
勇気を出して話しかけようとしたけど、葵に被せるように話題を振られる。
「そうだな。葵がいなくなった時に、シン兄から招集がかかったから」
「ふーん」
そんな適当な返事に、アキラはすっと目を細める。
「葵。シン兄はどこだ」
「さあ? 仕事してるんじゃないのかな」
葵は視線を窓の方へ向けた。追い掛けて窓の外を見る。今夜は月は見えなかった。
「今日ここへ来るのを連絡したんだ。シン兄に」
「ふーんそうなんだー」
「いつもならしつこいくらい連絡が入ってきてたのに、今日は何の連絡もなかった」
「へー」
「シン兄はお前の専属の執事だろ。今どこにいる。お前が呼べば来るんじゃないのか」
「彼は専属ではあるけれど、家が雇ってる身だ。わたしよりも家の方が優先順位は高いよ」
アキラは葵の仕草を、反応を見落とすまいと見つめ続けるが、葵が窓から視線を外すことはなかった。
そう言う葵の仕草は変わらなかったが、どこか単調なのが少し気になった。でもそう言われてしまったらもう、シントについては聞けないのだと、アキラは悟る。
『今は家の仕事をしている』
それが本当か嘘かなんてわからないけれど、『だからどこにいるかも何してるかもわからない』と言われるのが落ちだ。
でも確かに葵は言った。『お話しますか』と。
それはきっと、暗に『答えられたら答える』と、伝えてくれているのだろう。きっと、その量は少ないのだろうが。
「(……なら、質問の仕方を考えればいいだけだ)」
アキラは甘いミルクティーに一口口を付ける。
「――葵、話をしよう」
そう言うと、ゆっくりとだがやっと、葵と視線が交わった。
「(いつもの葵のはずなのに……)」
仮面は着けていないはずなのに。どこか壁があるような。葵を遠くに感じてしまう。
このままではきっと、自分の部屋に呼んだ時の二の舞になりかねない。
「このミルクティー甘くて美味しい」
「……? そう? それはよかった」
そんなことを言われると思っていなかったのか、葵は一瞬呆気にとられていた。
「(よし、ジョブは完璧だ!)」
アキラは心の中でガッツポーズをした▼



