すべてはあの花のために⑥


「……あお」

「アキラくんはこの部屋入ったことあるんだっけ?」


 勇気を出して話しかけようとしたけど、葵に被せるように話題を振られる。


「そうだな。葵がいなくなった時に、シン兄から招集がかかったから」

「ふーん」


 そんな適当な返事に、アキラはすっと目を細める。


「葵。シン兄はどこだ」

「さあ? 仕事してるんじゃないのかな」


 葵は視線を窓の方へ向けた。追い掛けて窓の外を見る。今夜は月は見えなかった。


「今日ここへ来るのを連絡したんだ。シン兄に」

「ふーんそうなんだー」

「いつもならしつこいくらい連絡が入ってきてたのに、今日は何の連絡もなかった」

「へー」

「シン兄はお前の専属の執事だろ。今どこにいる。お前が呼べば来るんじゃないのか」

「彼は専属ではあるけれど、家が雇ってる身だ。わたしよりも家の方が優先順位は高いよ」


 アキラは葵の仕草を、反応を見落とすまいと見つめ続けるが、葵が窓から視線を外すことはなかった。
 そう言う葵の仕草は変わらなかったが、どこか単調なのが少し気になった。でもそう言われてしまったらもう、シントについては聞けないのだと、アキラは悟る。

『今は家の仕事をしている』

 それが本当か嘘かなんてわからないけれど、『だからどこにいるかも何してるかもわからない』と言われるのが落ちだ。

 でも確かに葵は言った。『お話しますか』と。
 それはきっと、暗に『答えられたら答える』と、伝えてくれているのだろう。きっと、その量は少ないのだろうが。


「(……なら、質問の仕方を考えればいいだけだ)」


 アキラは甘いミルクティーに一口口を付ける。


「――葵、話をしよう」


 そう言うと、ゆっくりとだがやっと、葵と視線が交わった。


「(いつもの葵のはずなのに……)」


 仮面は着けていないはずなのに。どこか壁があるような。葵を遠くに感じてしまう。
 このままではきっと、自分の部屋に呼んだ時の二の舞になりかねない。


「このミルクティー甘くて美味しい」

「……? そう? それはよかった」


 そんなことを言われると思っていなかったのか、葵は一瞬呆気にとられていた。


「(よし、ジョブは完璧だ!)」


 アキラは心の中でガッツポーズをした▼