「葵ちゃん。だから、いつでも会えるから」
「……? はい。そうですね」
「いつでも呼んで? 飛んでいく」
「……はい。ありがとうございます」
葵にとって、もう一つの捌け口になってくれると、彼は暗にそう言ってくれた。
「それで? あいつらとは仲直りできたの?」
「…………」
「できてないのか……」
そこでようやくトーマは、葵の手首に結ばれているリボンの数々視線を落とした。
「……葵ちゃん」
怒りをあらわにするトーマに、強く腕を掴まれる。
「どういうこと。これが原因でしょ。泣いてたの」
「……そ、れは……」
「ちょっと見せてね」
トーマは左手首、それから右手首に巻かれたリボンを見た。
「……青と白と黄色は、葵ちゃんがチョコに結んでた?」
葵は何も反応しなかった。トーマはそれを肯定と取って話を進める。
「バレンタインに乗じてみんなに謝って、きちんと話して仲直りしたかったって感じか」
「(リボンだけ見てそこまでわかるなんて。あなた探偵にも向いてそうですね)」
「今真面目に俺聞いてるんだから、ちゃんと答えてよ」
おっと、また漏れてましたか。
トーマは大きなため息をついて、葵の左手首に結ばれた黒と灰色のリボンを取り除いてくれた。それから、続いて右手のものを全て取り去ってくれる。
「葵ちゃん、こっち見て」
トーマは五つのリボンを葵の前に出す。
「これは誰に巻かれた? 葵ちゃんがチョコ渡すんだ。みんなの内の誰かだよね。黒は? 葵ちゃんが巻いて渡したの? その返事? 違うよね。勝手に巻かれたんだよね」
葵は、何も答えなかった。
「……やるとしたらあいつか」
応え、られなかった。
「……葵ちゃん。大丈夫だから」
「……なにが。大丈夫、ですか」
「誰かに言われなかった? あいつ、素直じゃないからこんなことしただけだから。だから」
「でも! わざわざ持ってきてたんです……!」
悲痛な声が響き渡る。
「わざわざ持ってきて、わたしが来るってわかってて、それで結んだんです! わたしが嫌いだって、消えて欲しいって、直接そう言ったんです! ……いいんですトーマさん。だって、悪いのは全部わたしなんですから」
諦めた表情の葵の頬が、パチンと軽い音を立てて包まれる。
「どうして悪いのは葵ちゃんなの? アキと結婚するから悪いの? 違うでしょ」
「……きちんと説明。できないんです」
「まあ俺もわかんなかったけど」
「言えないんです。言いたくないんです。だから言える範囲で伝えようと思っても、みんな逆に怒っちゃったんです」



