すべてはあの花のために⑥


「葵ちゃん。だから、いつでも会えるから」

「……? はい。そうですね」

「いつでも呼んで? 飛んでいく」

「……はい。ありがとうございます」


 葵にとって、もう一つの捌け口になってくれると、彼は暗にそう言ってくれた。


「それで? あいつらとは仲直りできたの?」

「…………」

「できてないのか……」


 そこでようやくトーマは、葵の手首に結ばれているリボンの数々視線を落とした。


「……葵ちゃん」


 怒りをあらわにするトーマに、強く腕を掴まれる。


「どういうこと。これが原因でしょ。泣いてたの」

「……そ、れは……」

「ちょっと見せてね」


 トーマは左手首、それから右手首に巻かれたリボンを見た。


「……青と白と黄色は、葵ちゃんがチョコに結んでた?」


 葵は何も反応しなかった。トーマはそれを肯定と取って話を進める。


「バレンタインに乗じてみんなに謝って、きちんと話して仲直りしたかったって感じか」

「(リボンだけ見てそこまでわかるなんて。あなた探偵にも向いてそうですね)」

「今真面目に俺聞いてるんだから、ちゃんと答えてよ」


 おっと、また漏れてましたか。
 トーマは大きなため息をついて、葵の左手首に結ばれた黒と灰色のリボンを取り除いてくれた。それから、続いて右手のものを全て取り去ってくれる。


「葵ちゃん、こっち見て」


 トーマは五つのリボンを葵の前に出す。


「これは誰に巻かれた? 葵ちゃんがチョコ渡すんだ。みんなの内の誰かだよね。黒は? 葵ちゃんが巻いて渡したの? その返事? 違うよね。勝手に巻かれたんだよね」


 葵は、何も答えなかった。


「……やるとしたらあいつか」


 応え、られなかった。


「……葵ちゃん。大丈夫だから」

「……なにが。大丈夫、ですか」

「誰かに言われなかった? あいつ、素直じゃないからこんなことしただけだから。だから」

「でも! わざわざ持ってきてたんです……!」


 悲痛な声が響き渡る。


「わざわざ持ってきて、わたしが来るってわかってて、それで結んだんです! わたしが嫌いだって、消えて欲しいって、直接そう言ったんです! ……いいんですトーマさん。だって、悪いのは全部わたしなんですから」


 諦めた表情の葵の頬が、パチンと軽い音を立てて包まれる。


「どうして悪いのは葵ちゃんなの? アキと結婚するから悪いの? 違うでしょ」

「……きちんと説明。できないんです」

「まあ俺もわかんなかったけど」

「言えないんです。言いたくないんです。だから言える範囲で伝えようと思っても、みんな逆に怒っちゃったんです」