葵はつらそうに笑いながら、コップに口をつけた。
「間違って欲しくないのは、トーマさんにそう返事をしたことについて、嘘は言ってないってことなんです」
「信じたいけど、ちょっとよくわかんないし、今パニック」
「すみません。でも、アキラくんに結婚を申し込んだのは、わたしなんです」
「え。……ちょっと。本当に葵ちゃん、わけがわからない」
「そうだと思います。でも本当のことなんです。わたしには好きって気持ちがわかりません。でも、アキラくんは好きなんです。……ほんと、困ります。これ以上のことは話したくないのに、なんて言ったらみんなはわかってくれるのか」
「……葵ちゃんは、アキ好きなの」
「否定はしません。でも、アキラくんにはきちんとお断りの返事をしたんです」
「はあ。……ちょっとそのことはよくわからないからまた教えて?」
ぐしゃっと、トーマが頭を抱える。
「はい。それじゃあ今度はわかりやすくではなくて難しく伝えますね」
「いや、わかるように説明して欲しいんだけど……」
そう言うトーマにクスリと笑う。きっとトーマならすぐに解いてしまいそうだと、何故かちょっと楽しみな自分がいた。
その時、トーマの左手首に紺色のリボンが見える。
「あ……」
「ん? ああこれ? ちゃんと届いたよーって言おうと思って」
そういえば、彼はどうしてこんなところにいるんだろう。
「トーマさん。どうしてこちらへ来られてるんですか……?」
「ん? それはねー、……葵ちゃんに会いたかったからっ」
「わああ!!」
容赦なく、トーマが抱きついてくる。危機を察知して、コップを置いておいてよかった。
「会いたかったー葵ちゃんっ」
「あーはいはい。それはヨカッタデスネ」
ぎゅうっと抱きついてくる彼の頭を、葵はバンバン叩く。
「なんでー。もうちょっとさ、久し振りに会えた喜びを分かち合おうよ!」
「なんで、トーマさんは、こちらへ、いらっしゃって、るんですか? 受験は、どうしたんじゃい!」
嫌みったらしく言うけれど、トーマの嬉しそうな顔は変わらない。
「俺は会いたかったのに、葵ちゃんは会いたくなかったの……?」
「受験生にもかかわらず、毎日と言っていいほど電話は掛かってくるので、久し振りな感じがしません」
「えー……」
しゅん……と、落ち込む彼が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
「トーマさん。会いたかったです」
「……!」
「会えてよかった。また、会えたっ」
「っ、葵ちゃんっ」
腰にしがみついてくるトーマを、少しだけ抱き締め返してあげた。
「それで? どうしてこちらに来られたのか、教えてもらえませんか……?」
「しょーがないなー。知りたがりの葵ちゃんに、特別に教えてあげましょう」
すぐ調子を取り戻したけど。まあ、それも嬉しそうなので良しとしよう。



