すべてはあの花のために⑥


 しばらくして落ち着いた葵に、トーマがあったかくて甘いホットミルクを作ってくれた。


「……ありがとう、ございます」

「いいえ。……落ち着いた?」


 一口、甘いミルクを飲むと、すごく気分が安らいだ。


「おいしいです」

「そ? それはよかった」


 嬉しそうにトーマがにっこり笑ってくれる。それにつられて笑おうとしたけれど、「無理に笑わなくていいよ。引き攣ってて怖いから」と言われたので、すぐにやめた。
 ホットミルクをちびちびと飲む。


「葵ちゃん。あいつらと喧嘩したんだって?」

「え? 何で知って……」

「俺の情報網舐めないでよ。それぐらいのことすぐにわかるんだから」


 リボン、未だに解いてないのにストーカーに遭っています▼


「それで? 喧嘩したのが原因? でもそれってちょっと前だよね?」


 すでに被害に遭っています▼


「喧嘩の原因まではわからないんだけど、なんで喧嘩したの? 珍しいこともあるもんだと思ったんだけど」

「わたしがアキラくんと結婚するからです」


 束の間、トーマの時が止まった▼


「葵ちゃん! 今すぐ俺と結婚しよう!」

「申し訳ありません……」

「そんな普通に答えないでよ呆けたのに」

「(いや、絶対本気だったでしょ……)」


 トーマは葵の手をコップごと捕まえてきて、真面目な顔してそんなこと言ってきた。
 最初は、初めてのパターンだったのでどうしようかと思ったけど、冷静に対処できた。100点満点だ。


「ていうかそれってほんとなの? 冗談とかじゃなくて」

「そうですね。この縁談は殆ど決まったようなものなんです」

「……へえ」

「……怒って、いらっしゃいますか?」

「別に葵ちゃんに怒ってるわけじゃないよ? なんでそんなこと急に決まったのかなって思ってる」
 
「……この、縁談はずっと前から決まっていたことです」

「縁談があったから、俺を振ったの? 時間がないって、大人になる前に消えるって、そういうこと?」

「……近からず遠からず、ですね」