しばらくしたあと、始業を始めるチャイムが学校中に鳴り響き、校内が一気に騒がしくなる。それでも二人とも、そこから動こうとはしない。
すると、座り込んでいた葵に目線を合わせるように、ヒナタがしゃがみ込んでくる。
「このバレンタイン、逃げる方法があるの知ってる?」
突然何をと、俯いていた顔を上げたら、一気に血の気が引いていくのがわかった。
「はい。これなーんだ」
ヒナタが目の前に揺らして見せつけてくるのは、黒と灰色のリボン。
「流石のあんたも、そういう反応するってことはちゃんと色の意味わかってるんだね」
「……い、や」
小さな抵抗もできないほど、葵は怯えていた。震えていた。
けれど、そんなもの一切興味がないと言いたげに、ヒナタはそれはそれは丁寧に、それを結びつけていく。
「あ、そうだ。せっかくだし、これにもちゃんと返事してあげるよ」
今度は、葵が持ってきたチョコからリボンを全て抜き去り、それを結びつけてくる。
しっかりと左手首に結ばれた、黒と灰色。そして、右手首に結ばれた青と白と黄色のリボン。その、意味は――。
「オレはあんたのこと、『許さない』」
修復したはずの心に、ピキッとまた亀裂が入る。
「『話』とか、聞きたくもない」
……ピキ。ピキ。
「『友達』とかあいつらで十分。あんたなんかいらない」
――ピキ。
「だってオレ、あんたのこと『嫌い』だから」
ビキビキ。
「だからさっさと『消えて』くんない? あんたなんかいらない」
――ビキッ。
「(……泣くな。なくなっ……!)」
その言葉を最後に、葵はすっくと立ち上がる。
まだ、だめだと。そう言い聞かせて、葵は仮面を貼り付けた。
「そう、ですか。わかりました。すみませんお手数をお掛けして」
小さくヒナタに微笑んで、葵は教室を出て行った。



