すべてはあの花のために⑥


 しばらくしたあと、始業を始めるチャイムが学校中に鳴り響き、校内が一気に騒がしくなる。それでも二人とも、そこから動こうとはしない。
 すると、座り込んでいた葵に目線を合わせるように、ヒナタがしゃがみ込んでくる。


「このバレンタイン、逃げる方法があるの知ってる?」


 突然何をと、俯いていた顔を上げたら、一気に血の気が引いていくのがわかった。


「はい。これなーんだ」


 ヒナタが目の前に揺らして見せつけてくるのは、黒と灰色のリボン。


「流石のあんたも、そういう反応するってことはちゃんと色の意味わかってるんだね」

「……い、や」


 小さな抵抗もできないほど、葵は怯えていた。震えていた。
 けれど、そんなもの一切興味がないと言いたげに、ヒナタはそれはそれは丁寧に、それを結びつけていく。


「あ、そうだ。せっかくだし、これにもちゃんと返事してあげるよ」


 今度は、葵が持ってきたチョコからリボンを全て抜き去り、それを結びつけてくる。
 しっかりと左手首に結ばれた、黒と灰色。そして、右手首に結ばれた青と白と黄色のリボン。その、意味は――。


「オレはあんたのこと、『許さない』」


 修復したはずの心に、ピキッとまた亀裂が入る。


「『話』とか、聞きたくもない」


 ……ピキ。ピキ。


「『友達』とかあいつらで十分。あんたなんかいらない」


 ――ピキ。


「だってオレ、あんたのこと『嫌い』だから」


 ビキビキ。


「だからさっさと『消えて』くんない? あんたなんかいらない」


 ――ビキッ。


「(……泣くな。なくなっ……!)」


 その言葉を最後に、葵はすっくと立ち上がる。
 まだ、だめだと。そう言い聞かせて、葵は仮面を貼り付けた。


「そう、ですか。わかりました。すみませんお手数をお掛けして」


 小さくヒナタに微笑んで、葵は教室を出て行った。