すべてはあの花のために⑥


 あっという間に、パーティーではなく食事会は終わった。その後どうやら父親同士で話をするらしく、「後は当事者同士で」と、今後の話をするように言われ、父親たちはその場を後にした。


「(……正直、聞きたいことは山ほどある)」


 でも、どう切り出すべきかと悩んでいた時だった。


「皇くん、お時間はいつまで大丈夫でしょうか」

「え? まあ、父さんたちの話が終わったら帰るだろうから、それぐらいまでか」


 アキラの答えに、「そうですか……」と、葵は少し思案顔。

 実際のところ、昨日シランから話を聞いたもののわからないことだらけで。最終的には『これ以上は教えられない』と線を引かれた。あとは葵から聞くようにと。その話というのも、殆ど知ってるところを話されただけだ。
 アキラはどうしたものかと思っていると、「もしよかったらなんですが」と、葵が微笑みながら話し出した。


「わたしの部屋で少し、……お話しますか?」


 普段ならドキッ的な展開だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。


「(まあ俺はすでにベッドに押し倒したことはあるけど)」


 アキラは「ああ。よろしく頼む」と言って、席を立った。


「どうぞ。こっちに座ってて?」

「ああ。わかった」


 葵の部屋に到着するや否や、普段生徒会室だけしか外れない仮面を外してくれるよう。


「(まあ自分の部屋だしな)」


 それに、“見られている感じ”もここにはない。
 にしても、てっきりここに移動ってなったらシントがひょっこり出てくるんじゃないかと思っていた。でもそんな気配は一切なく、葵がアキラに飲み物を聞いてきたので、いちごミルクと答えておいた。


「いやアキラくん、それはないわー」

「え。ないのか(しゅん……)」


 しょんぼりしたアキラに葵は小さく笑ったあと、「紅茶に砂糖とミルクいっぱい入れてあげるね」と、温かいミルクティーを出してくれた。


「(砂糖をいっぱい……?)」


 普段なら甘いもの、糖分が高いものを控えるように言ってくるのに。時間もすでに21時近い。
 だから、何となくだけどわかる。

『何も聞かないでくれ』

 そう、言いたいのだろう。


「(……甘い)」


 入れてくれたミルクティーを一口飲んでみると、やっぱり飛び切り甘かった。葵はというと、案の定苦い顔をしながらも、いつも通りコーヒーを飲んでいる。


「(……寝られなく、ならないのか……?)」


 自分はそんな繊細な体質ではないので、どんなことがあってもいつも規則正しく寝て、そして起きられる。
 でも葵は、少し飲んだだけでコップを遠くに置いた。恐らくはもう、飲む気なんてないのだろう。