すべてはあの花のために⑤


「ちなみにあっちゃんは、好きな人じゃないと付き合おうとは思わない?」

「え? 好きな人じゃないと付き合わないでしょ?」

「それが世の中には、付き合ってみてから好きになるパターンの人もいてですね」

「え。そうなの?」

「まあ付き合う時点で嫌いではないのだろうけども。……だから、あっちゃんはみんなのこと振ってるのかと思ったんだけど、そうじゃないの?」

「そりゃわたしも、好きになった人と付き合っていきたいとは思ってるけど」

「……けど?」

「……わたしには、恋愛よりも先に、しなくちゃいけないことがあるから」


 そう言って葵は、左手をお湯から出す。


「しなくちゃいけないことって言うよりも、願いかな? それを叶えないといけないんだ」

「……叶えないと、いけないんだね」

「うん。わたしが恋愛をするには、結局のところそれが叶わないと始まらないかなって思ってる」

「でも、別にそれは、好きになるってこととは違うよね?」


 キサは葵の左手を取って小さく笑う。


「今はまだ付き合えないかもしれない。でも、好きになることはできるんじゃない?」

「うん。わたしもそう、思ってる」

「あっちゃんのことはもう安心してるよ? もう、恋愛のことに関して言うつもりはないし、十分上級者だっ!」

「ははっ。それは嬉しい!」

「だからあたしから言えることは、もっと視野を広げてってことかな? ……きっとあっちゃんのこと、たくさんの人たちが見てくれてるからね。あっちゃんが恋に落ちる相手が、あっちゃんのことを幸せにしてくれること、あたしは祈ってるよ」

「……っ、うんっ。ありがとうキサちゃんっ」


 長風呂をしてしまったおかげで、指先はもう皺だらけ。それに二人して笑い合った。