すべてはあの花のために⑤


「……トランプの、ピラミッド……」


 葵がヒナタに壊されてしまって、写真に収めることができなかったと思っていたもの。


「こ、これ……」

「あれ。いらなかった?」


 一体いつ撮ったのだろうかと、写真とヒナタを交互に見ながら疑問符をそこら中に飛ばす。


「オレにできないことはないからね」

「どこかで聞いたなあその台詞……」


 そこまで似なくてもいいだろうにと思っていると、彼は歩いて坂を下り、灯台から離れていく。葵は、その彼の後ろをゆっくりと付いていった。


「もしかしなくとも、それってトーマ?」

「あはは。よくわかったね」


 すると彼は、足を止めた。その横顔は、少しだけ嬉しそうだ。


「え。魔王様だよ? え? だから君は悪魔くんなの?」

「いや違うし。ていうか何わけわかんないこと言ってんの」

「い、いひゃい」


 ヒナタが、軽く葵の頬を抓った。


「昔から尊敬してるんだよ。チカみたく、本人に言ったことはないけど」

「え。悪魔感を?」

「言い方が悪い。頭がよく回るところとか、よく気付くところとか。でもオレが一番尊敬してるのは、トーマの腕だから」


 小さい頃、トーマが撮った写真を見せてもらったことがあるそうだ。それが好きだったから、真似するようになったのだという。


「……だから、似てたんだね」

「え?」

「あ。えっと、ヒナタくんの写真、トーマさんの写真とよく似てたから」

「……今はオレの方が上な自信あるけど?」

「ははっ。そうかもね」


 似てるのは、写真だけじゃないけどね。

 でもそれは、そっと飲み込んだ。知らないことばかりだったけれど、彼のことを知れて嬉しい自分がいたから。