そうこうしているうちに、夕日が綺麗な時間帯になった。海面にオレンジ色の光の道を作って、太陽が地平線へ沈んでいく。
「(そうだ! トーマさんにわたしの腕前を評価してもらおう!)」
合格祈願のお守りもちゃっかり買った葵は、それも写るように夕日に翳しながら撮ろうとするけれど。
「……あれ。どうしてもお守りが真っ黒になっちゃう……」
悪戦苦闘していると、横からヒナタがひょっこり。
「写真撮るの?」
「あ。うん。トーマさんに送ってあげようと思って」
スマホを覗き込んだヒナタは、「逆光だね」とバッサリ。それを悩んでいることを伝えると、「じゃあオレが撮ってあげる。カメラの性能いいから」と。まあ珍しいこともあるもので。
「だ、だったら、このお守りと夕日! あとあと、灯台も一緒に入るように撮って欲しい!」
「注文多っ」
と文句を言いつつも、やっぱり撮ってくれるみたい。
葵はお守りを持って、ヒナタに撮ってもらうことに。
「……もうちょっと左」
「こう?」
「うん。そこで笑って」
「ええ⁉︎ もしかしてわたしも写してるの?!」
「え。違うの」
「わたしはいいんだよう。お守りを写してあげたかったんだよう」
「きっとトーマ、喜ぶと思うけど」
「えっ。そ、そういうもん?」
「うん」と一つ頷く似たもの同士の彼の意見を参考に、「じゃあしょうがない!」と、葵は満面の笑顔を見せた。
「ヒナタくーん? 撮れたー?」
葵がそう聞いてから一拍置いて、カシャッとシャッター音が鳴る。ようやく彼の納得いった写真ができたようだ。
「見せて見せて~」
葵はヒナタのスマホの画面を覗いた。
「え。わたしメインになってる」
「絶対お守りなんかより御利益ありそうじゃん」
「わたし、もしかしなくとも仏様みたいな顔してる?」
「仏は仏でも大仏だよね」
「まさかのパンチパーマ?!」
「大仏様にそんなこと言うなんてサイテー」
何言ったところで口では敵わないので、それ以上の言い合いはやめておいた。
そして改めて彼が撮ってくれた写真を見る。そこには、きちんと葵の注文通り全てが入っていた。
「ヒナタくん上手……」
「あんたもいる? この写真」
「……わたしはいいや。ヒナタくんがトーマさんに送って?」
葵は小さく笑う。そして写真から顔を上げて、沈んでいく夕日を眺めた。
「人に持ってもらえるだけで、わたしは嬉しいから」
「……わかった」
そう言ったヒナタは、しばらくスマホを操作していた。
視界の端に映るオレンジ色の髪が、夕日の色と同じだなと、そう思っていたら。
「ん?」
葵のスマホが鳴った。
もしかしてと思って確認すると、やっぱり相手はヒナタ。てっきりトーマに送ってくれたものだとばかり。
「あんた、欲しそうな顔してたから」
「え?」
そこに写っていたのは、さっき撮った写真ではなかった。



