すべてはあの花のために⑤


 そうこうしているうちに、夕日が綺麗な時間帯になった。海面にオレンジ色の光の道を作って、太陽が地平線へ沈んでいく。


「(そうだ! トーマさんにわたしの腕前を評価してもらおう!)」


 合格祈願のお守りもちゃっかり買った葵は、それも写るように夕日に翳しながら撮ろうとするけれど。


「……あれ。どうしてもお守りが真っ黒になっちゃう……」


 悪戦苦闘していると、横からヒナタがひょっこり。


「写真撮るの?」

「あ。うん。トーマさんに送ってあげようと思って」


 スマホを覗き込んだヒナタは、「逆光だね」とバッサリ。それを悩んでいることを伝えると、「じゃあオレが撮ってあげる。カメラの性能いいから」と。まあ珍しいこともあるもので。


「だ、だったら、このお守りと夕日! あとあと、灯台も一緒に入るように撮って欲しい!」

「注文多っ」


 と文句を言いつつも、やっぱり撮ってくれるみたい。
 葵はお守りを持って、ヒナタに撮ってもらうことに。


「……もうちょっと左」

「こう?」

「うん。そこで笑って」

「ええ⁉︎ もしかしてわたしも写してるの?!」

「え。違うの」

「わたしはいいんだよう。お守りを写してあげたかったんだよう」

「きっとトーマ、喜ぶと思うけど」

「えっ。そ、そういうもん?」


「うん」と一つ頷く似たもの同士の彼の意見を参考に、「じゃあしょうがない!」と、葵は満面の笑顔を見せた。


「ヒナタくーん? 撮れたー?」


 葵がそう聞いてから一拍置いて、カシャッとシャッター音が鳴る。ようやく彼の納得いった写真ができたようだ。


「見せて見せて~」


 葵はヒナタのスマホの画面を覗いた。


「え。わたしメインになってる」

「絶対お守りなんかより御利益ありそうじゃん」

「わたし、もしかしなくとも仏様みたいな顔してる?」

「仏は仏でも大仏だよね」

「まさかのパンチパーマ?!」

「大仏様にそんなこと言うなんてサイテー」


 何言ったところで口では敵わないので、それ以上の言い合いはやめておいた。
 そして改めて彼が撮ってくれた写真を見る。そこには、きちんと葵の注文通り全てが入っていた。


「ヒナタくん上手……」

「あんたもいる? この写真」

「……わたしはいいや。ヒナタくんがトーマさんに送って?」


 葵は小さく笑う。そして写真から顔を上げて、沈んでいく夕日を眺めた。


「人に持ってもらえるだけで、わたしは嬉しいから」

「……わかった」


 そう言ったヒナタは、しばらくスマホを操作していた。
 視界の端に映るオレンジ色の髪が、夕日の色と同じだなと、そう思っていたら。


「ん?」


 葵のスマホが鳴った。
 もしかしてと思って確認すると、やっぱり相手はヒナタ。てっきりトーマに送ってくれたものだとばかり。


「あんた、欲しそうな顔してたから」

「え?」


 そこに写っていたのは、さっき撮った写真ではなかった。