すべてはあの花のために⑤


「(あ、そうだ。さっきの着けよーっと)」


 出来立てほやほやのとんぼ玉を取り出した葵は、早速ブレスレットを着けようとするけど、どうしても片手だと上手くいかない。
 苦戦していると、「貸して」とため息交じりにヒナタの手が伸びてきて、さっと着けてくれた。


「あ、ありがとう」

「いいえ。ていうかミサンガ着けてたんだね」

「え? あ、うん! 折角だしっ」

「……あんた利き手どっちだっけ」

「右だよ?」

「目標が決まってるなら利き手。何かを変えたいなら、利き手とは逆にしたらいいって聞いたことあるよ。まあこれ、パワーストーンの話だけど」

「……何かを、変えたい?」

「何? なんか変えたいことでもあるの?」

「……わたし、は……」


 ブレスレットを押さえながら思わず俯く。するとヒナタが心配そうに覗き込んだ。


「もしそうじゃないなら、折角だし今のうちに変えたら? 着ける手」

「……ううん。大丈夫。わたしにはこっちで正解だから」

「あっそ」

「ヒナタくんはどっちに着ける? 多分今は着けないんだろうけど――」


 と言い終わる前に、ヒナタも自分の手首に葵とお揃いのものを着け始める。


「オレはこっち」


 ヒナタが着けたのは、右。


「つっ、着けてくれるのっ?」

「え。だって、折角だし」

「そっか! お揃いだね!」

「アーハイハイ。ソーデスネー」

「もうっ! なんで素っ気ないの!」

「あんたの困ってる顔が好きだから」

「ああそうですかそうですか! もう知らない!」

「…………」

「あれ? というかヒナタくん、利き手どっちだっけ?」

「右だけど」

「そっか! だったら目標が決まってるんだね! すごいねえ!」

「はあ。……それで? あんたは何を変えたいの」


 そう尋ねたヒナタは、なんでか頭を抱えていたけれど。


「……わたしが変えたいのは、『わたし』だ」


 そう答えながら葵は、真っ直ぐ手を空へ――太陽へと伸ばす。


「お日様を、取り戻したいなって」

「……お日様? 取り戻すってどういうこと?」

「こんな話を聞いてもつまんないよ」

「つまんないかどうかを決めるのはあんたじゃない」


 真摯な瞳に真っ直ぐ見つめられる。


「……ある日、小さな小さな芽は、ぽとんと海の中に潜っていきました」


 それがどうしてか嬉しく思えて、葵はぽつりぽつりと話し出した。