すべてはあの花のために⑤


 答えが体に、脈に現れる。
 それでも彼は、それを口にはしなかった。


「……もしそうだったら左頬に。そうじゃなかったら右頬に。わからなかったらおでこに」

「……葵?」

「言いたくなかったら鼻に。アキラくんがそれで治るなら、……キスしてもいいことにする」

「……!」


 柱の陰になっているので、みんなからは見えない。

 ゆっくりと二人は離れて、お互いが苦笑い。アキラは、葵の耳から後頭部にかけて手を添えて、柔らかくキスを落とした。


「……んっ」


 その場所は――……唇。


「……あっ。アキラくんっ?!」


 しかし彼は、悪びれる様子もなくしゃがんだまま葵を引き寄せる。


「答えは、『それどころじゃなかった』だな」

「え……?」

「葵に言われるまで、そんなこと考えてなかった」

「……!」

「でもそう言うってことは、どこか心当たりがあるんだな」

「そ、れは……」

「もしそうだったとしても、俺はきっと、鼻にしてたよ」

「……言いたく、ないの?」

「またお前が、どこか行ってしまうのが嫌だから」

「アキラくん……」

「またお前に、……自分を気持ち悪いだなんてこと、言って欲しくないんだ」


 力強く、引き寄せられる。


「だから俺は言わない。お前の心を守りたいから」

「……わかった」

「もう何も気にするな。オウリの家でのことも」

「うん。……ありがと。アキラくん」


 彼の手は、もう震えていなかった。



 ……けれど。


「あ、あの。アキラくん?」

「なんだ」


 彼の手が、さっきよりもがっちりと後頭部に回っているのは、きっと気のせいではないだろう。


「み、みんなのところに行こっか?」

「まだ、荒療治できてない」

「嘘言うな! もう全然震えてないじゃないかっ!」

「震えてはないけど、俺は葵を見るだけでいろいろ感じるんだ」

「どっ、どういうこと?」

「だって俺は、葵が好きだから」

「そ、そういうのはっ。普通おおっぴらに言わないのっ!」

「しょうがない。俺は昨日葵に襲われる前から、葵にはいろいろ反応してる」

「ほ、ほんとどういうことーッ?!」

「いいから。今は黙って――」