すべてはあの花のために⑤


 そう言うツバサに肩を掴まれて、彼の前まで連れてこられた。


「……えっと。アキラく」

「――……!」


 柱の陰に話しかけたら、向こうでびくっと彼が肩を大きく震わせたのが見えた。


「(……わたし、一体どこまで襲ったの。こんなアキラくん初めてなんですけど……)」

「あっ。こ、これは。違うんだ……」


 と言っていても、体が震えているように見えるのは気のせいではない。


「でも、怖いでしょう? わたしのこと」

「ち、違う! 怖い、とか。そんなんじゃなくて……」

「え。ど、どうしたんだアキラくん」


 アキラの前まで来たけれど、彼はなんでか頭を抱えてしゃがみ込んでいた。慌てて葵も、彼と一緒にしゃがみ込む。


「……ど、どうしても。思い出して……」

「うん。だから、嫌だったんでしょ」

「ちが……っ! ……っ、体が。勝手に、反応するんだ。お、思い、出して」

「え」

「葵は、覚えてないんだろうけど。……勝手に、なんか。変に……」

「(重傷じゃん……)」


 怖がられていないだけ、良しとするべきか。


「ど、どうしたら治るかな……?」

「……昨日は、葵にされたから。今日は俺がす――」

「それはさせないよ?!」

「む」


 結構余裕じゃないかと思ったけれど、彼の手はやっぱり震えたままで。


「……しょうがない! 荒療治といこうか!」

「はっ? ちょ、待てっ。葵……!」

「またないっ」

「――!」


 葵はアキラの両頬に手を添えて、額同士をこつんと合わせる。


「……あ。おい……?」

「大丈夫。……大丈夫だよ、アキラくん」


 小さな声は、きっと目の前のアキラにしか聞こえない。


「ごめんねアキラくん」

「葵……」


 ゆっくりと、両頬に当てていた手を、アキラの首まで下ろしていく。


「……っ」


 ぴくりと動いてしまうアキラは、反射的に葵から離れようとしたけれど、葵は絶対に離さなかった。


「アキラくんにだけ、聞きたいことがあるんだ」

「……? な、何?」


 葵は小さく息を吸う。


「……昨日のわたしは、“オウリくんの家で見たわたし”と一緒だったかな」

「――!」