すべてはあの花のために⑤


「はあ。……なんで普通にしてくんないの」

「へ?」


 完全無防備な場所に一発食らい、起き上がれないでいた葵のそばに、ヒナタがしゃがみ込む。


「別に、昨日のことなら怒ってないから。もうあんた絞め殺そうなんてしないし」

「(も、もうってことはっ、しようとしてたってことですよねっ?!)」

「だから謝んなくっていいんだって。ま、オレはだけど」

「ひ。ひなた、くん……?」

「……よかった」

「――!」


 心底安堵したように、小さく笑うヒナタの手が、葵の頭を撫でた。まさかそんなことされると思わなくて、葵はピシリと固まった。天変地異でも、起こるのではないかと思っていたら。


「ぐはっ」
「あーちゃん大丈夫?! ひーくん酷い! 女の子蹴るなんてサイテー! ひーくんが謝れ!」


 オウリにどつかれて、今度はヒナタが吹っ飛んだ。
 ……あ、あれ? 起き上がらないよ? 結構やばいんじゃない??



「あーちゃん。昨日は、あーちゃんにあんなこと言わせてしまってごめんね」

「えっ。な、なんでオウリくんが謝るの! 悪いのはわたしで」

「あーちゃんの意思じゃないって、ちゃんと思ってる。でも、そんなこと言ってしまったって。あーちゃん絶対自分を責めるから……」

「オウリくん……」

「だから、言わせる前に気絶でも何でもさせればよかったと思って後悔してるんだ!」

「そ、そうだね?」

「だから、このことはもうナシね? どっちも悪かったってことにして?」


 そっと差し伸べてくれたオウリの手に、引っ張り起こしてもらいながら。


「……うんっ。ありがとう、オウリくんっ」

「うんっ!」


 よいしょっと立ち上がって、葵はみんながいるところへ。
 結構吹っ飛ばされたのだが、ヒナタのところにはチカゼとキサが駆けて行ってくれていた。



「ツバサくん。君はまだ男の子ですか」


 葵がそう聞いたら、まわりの男たちはビックリしていた。ビックリして泣き崩れて、「世の中の女子に謝れー……!」と、泣き叫びながら走り去っていった。


「うむ。全くもってその通りだ」

「え。アンタもそう思ってるわけ、やっぱり」

「え? 謝れとは思わないけど、ちょっとは分けて欲しいかも」

「そ、そう……」

「でも、ほんとに大丈夫? 性転換する?」

「しねえ」

「そっか。よかった」

「え。よかったの?」

「だってツバサくんが女の子になったら、絶対に世の中の女子を敵にまわすよ?」

「やっぱ思ってるんじゃないっ!」


 葵はツバサの手を取って、申し訳なさそうに俯く。


「でも、痛かったでしょ? ごめんね」

「……死ぬかと思ったけどいいわよ。アンタがアタシのこと嫌いじゃないなら」

「き、嫌うわけないじゃん!」

「だから気にしてないわよ。ほら最後、行ってきてあげなさい」