すべてはあの花のために⑤


「きっと、お前は覚えてないんじゃないかって思った。案の定、お前は知らない間に変になって、それを全く覚えてなかった。だから、お前のせいじゃないよ」

「……で、でも……」

「みんながあんな態度を取ったのは、お前とどう接すればいいかわかんないだけ。お前だってそうだろ? お前も、聞く前まではちゃんと普通でいられたのに、みんなにどんな顔して会えば、何て言えばいいかわかんなくなっただろ?」

「それは……」

「だから言うのやめてたんだよ。お前にそんな態度取って欲しくなかったから」

「チカくん……」

「お前がもうオレらから離れちまうのが嫌だったから、オレらはもし、お前が覚えてなかったら言わないでおこうって決めてたんだよ。なのにキサがさっさとチクるし、お前は飛び出して行っちまうし。もう散々」

「で、でも! 知らないままも嫌だった!」


 慌てて言うと、チカゼはわかっていると言いたげに小さく笑った。


「お前なら絶対、そう言うって思ってた」


 彼の笑顔が眩しくて、今度は慌てて顔を逸らす。


「安心しろ。みんなあんな顔してっけど、もう気にしてねえよ」

「う、嘘だっ!」

「今朝は、多分お前の顔見て思い出しちまったんだろうなー。特にアキが」

「……! ううぅ~……」

「あっ、悪い悪い! 違えから! 昨日の時点で、このことはオレらの胸の中にしまっとこうって話になったんだよ。もう一切触れないって。だから大丈夫だ。あいつら別に、お前のこと嫌ってねえから」

「……チカくんはそう言ってくれるけど、わたしにはそう思える自信がないよ……」

「……じゃあ、もしオレが暴走してお前に酷いことしたら、お前はオレのこと嫌いになんの? もう話してもくれねえ? 会ってもくれねえ?」

「そ、そんなこと絶対にしないよっ!」

「それと一緒」

「あっ……」

「オレらも一緒。じゃねえと捜しになんか来ねえよ。……お前も、オレのこと捜しに来てくれたじゃん。だからさっさと腹括れ」

「……はーい……」

「何だよ、そのやる気のなさは」

「チカくんに教わることになるなんて……」

「……お前、今日の夜覚えとけよ」

「じゃあ今度はチカくんの部屋の前にとりもちを仕掛けておこう」

「え。あれもうないんじゃないの?」

「たくさんあるから、チカくんの部屋中に仕掛けてあげてもいいよ?」

「やめとくわ。お前には勝てねえ」

「うむ。良い心がけだ」