すべてはあの花のために⑤


「はあ」と大きなため息をついて、ゆっくりと下ろしてくれる。けれど、腕はがっちりと回されたままだ。


「はっ、はなしてっ」

「逃げないってんなら放してやる」

「逃げる」

「……だったらオレは、今からお前を犯す」

「……へ? えっと、キャラじゃないから無理しない方が」

「しかも一般の人に大公開だ。喜べ」

「ちょ、やめ……!」


 冗談ではなかったようで、チカゼの手が服の中に入ってこようとしているのを慌てて止める。


「だったら逃げんな。オレは、お前に言いたいことあんだから」

「い、言いたいこと……?」

「逃げないか、犯されるのか。どっちがいいんだ。オレ的には後者の方が――」

「ばっ! バカ言わないで! 逃げないから放して!」


 チカゼは、満足そうににかっと笑った。


「うっし。んじゃ取り敢えずみんなんとこ――」

「い、行かない!」


 慌てて答えると、彼は頭をガシガシと掻きながら呆れたようにため息を落とす。


「じゃあ首里城。折角来たんだから、見て回るぞ。みんなには、見つかったけど今は会いたくないみたいだからっつっとくから」

「……でも……」

「オレのリクエストだぞ首里城。来たかったのに、何だよ」

「……ご、ごめ……」

「でもオレは、お前と一緒に回れたらそれでいい」


 やさしい音に、泣きそうになるのを必死に堪える。


「話したいこと、あるんだ。お前もだろ」

「……っ。う、ん」

「だったらさ、見学しながら話そうぜ。気が紛れるかもしれねえし。お前だって、ずっとみんなと会いたくないわけじゃないんだろ? それはあいつらも一緒だよ」

「で、でもわたし。酷いこと……」

「そうだとしても、お前がいなくなってみんな焦って捜してる」


 チカゼは葵の言葉を遮って、手を引きながら場内を歩き始める。


「それだけ。たとえ酷いことされたって、お前が大事だってことだ」

「……ちかくん……」

「だからさ、落ち着くまでオレと見てまわろ? みんなに見つかりそうになったら、一緒に逃げてやるから」

「……ふふ。うんっ。ありがとう」

「ま、オレは別にこのままでもいいけど。独り占めできるし」

「それは遠慮するわ~」

「え。復活したん」

「チカくんありがとう。それから。ごめんなさい」