「はあ」と大きなため息をついて、ゆっくりと下ろしてくれる。けれど、腕はがっちりと回されたままだ。
「はっ、はなしてっ」
「逃げないってんなら放してやる」
「逃げる」
「……だったらオレは、今からお前を犯す」
「……へ? えっと、キャラじゃないから無理しない方が」
「しかも一般の人に大公開だ。喜べ」
「ちょ、やめ……!」
冗談ではなかったようで、チカゼの手が服の中に入ってこようとしているのを慌てて止める。
「だったら逃げんな。オレは、お前に言いたいことあんだから」
「い、言いたいこと……?」
「逃げないか、犯されるのか。どっちがいいんだ。オレ的には後者の方が――」
「ばっ! バカ言わないで! 逃げないから放して!」
チカゼは、満足そうににかっと笑った。
「うっし。んじゃ取り敢えずみんなんとこ――」
「い、行かない!」
慌てて答えると、彼は頭をガシガシと掻きながら呆れたようにため息を落とす。
「じゃあ首里城。折角来たんだから、見て回るぞ。みんなには、見つかったけど今は会いたくないみたいだからっつっとくから」
「……でも……」
「オレのリクエストだぞ首里城。来たかったのに、何だよ」
「……ご、ごめ……」
「でもオレは、お前と一緒に回れたらそれでいい」
やさしい音に、泣きそうになるのを必死に堪える。
「話したいこと、あるんだ。お前もだろ」
「……っ。う、ん」
「だったらさ、見学しながら話そうぜ。気が紛れるかもしれねえし。お前だって、ずっとみんなと会いたくないわけじゃないんだろ? それはあいつらも一緒だよ」
「で、でもわたし。酷いこと……」
「そうだとしても、お前がいなくなってみんな焦って捜してる」
チカゼは葵の言葉を遮って、手を引きながら場内を歩き始める。
「それだけ。たとえ酷いことされたって、お前が大事だってことだ」
「……ちかくん……」
「だからさ、落ち着くまでオレと見てまわろ? みんなに見つかりそうになったら、一緒に逃げてやるから」
「……ふふ。うんっ。ありがとう」
「ま、オレは別にこのままでもいいけど。独り占めできるし」
「それは遠慮するわ~」
「え。復活したん」
「チカくんありがとう。それから。ごめんなさい」



