すべてはあの花のために⑤


 けれど、ある花の前で立ち止まる。


「……蘭……」


 呆然と立ち尽くしていると、隣にアキラが立つ気配がした。


「忘れてるわけじゃないんだ。ちゃんと、考えてるからね」


 彼にはまだ、唯一返事をしていないから。


「ちゃんとわたしの言葉でアキラくんに伝えたいから。ちゃんと伝わる方法で、君には答えるからね」


 必死に言葉を選ぶと、隣のアキラはふっと小さく笑った。


「ああ。……待ってる。俺はずっと、いつまでもお前の言葉を待ってるから」


 ぽんと頭に手を置いて、そう言ってくれた。
 その後ろ姿を見送っていると、どうしても胸が、きゅっと切なく痛んだ。


 ――――――……
 ――――……


 次に目が留まったのは、藍の花。
 ピンク色の可愛らしい花で、どこか控えめのように感じるが、どこか存在感をはっきりさせるような、そんな印象を受ける。


「花言葉は、美しい装い。あなた次第……か」


 何だろう。やっぱりどこか、彼を思い浮かべてしまう。



 その次に目に留まったのは睡蓮の花。
 水辺に浮かんでいる花は、もうすっかりその花を閉じてしまっていたが、それでもどこか綺麗で美しい姿だ。


「……太陽の、シンボル……」


 どうやら、古代エジプトではそうされていたそうだ。


「(でも、彼はどちらかというと月なんだよな)」


 そう思いつつも、葵はゆっくりと違う場所へと進んでいった。


 ――――――……
 ――――……


 そして、ある場所で葵は立ち止まり、目を見開いた。



「……ハイビスカスだ」


 葵は、吸い寄せられるように、その花の説明を読む。


「たくさん種類があるんだ」


 彼からもらったのは、真っ赤なハイビスカスだった。


「……本当に、一日しか咲かないんだね」


 花言葉もたくさんあった。


「怪盗さんにもいろいろ教えてもらったけど、わたしは一番、これがいいな」


 その花言葉を指でなぞる。



【あなたを信じます】


「……またいつか、会えたらいいですね」


 そうして葵たちは、夢のような、たくさんの花が咲いていた大きな森を後にした。