けれど、ある花の前で立ち止まる。
「……蘭……」
呆然と立ち尽くしていると、隣にアキラが立つ気配がした。
「忘れてるわけじゃないんだ。ちゃんと、考えてるからね」
彼にはまだ、唯一返事をしていないから。
「ちゃんとわたしの言葉でアキラくんに伝えたいから。ちゃんと伝わる方法で、君には答えるからね」
必死に言葉を選ぶと、隣のアキラはふっと小さく笑った。
「ああ。……待ってる。俺はずっと、いつまでもお前の言葉を待ってるから」
ぽんと頭に手を置いて、そう言ってくれた。
その後ろ姿を見送っていると、どうしても胸が、きゅっと切なく痛んだ。
――――――……
――――……
次に目が留まったのは、藍の花。
ピンク色の可愛らしい花で、どこか控えめのように感じるが、どこか存在感をはっきりさせるような、そんな印象を受ける。
「花言葉は、美しい装い。あなた次第……か」
何だろう。やっぱりどこか、彼を思い浮かべてしまう。
その次に目に留まったのは睡蓮の花。
水辺に浮かんでいる花は、もうすっかりその花を閉じてしまっていたが、それでもどこか綺麗で美しい姿だ。
「……太陽の、シンボル……」
どうやら、古代エジプトではそうされていたそうだ。
「(でも、彼はどちらかというと月なんだよな)」
そう思いつつも、葵はゆっくりと違う場所へと進んでいった。
――――――……
――――……
そして、ある場所で葵は立ち止まり、目を見開いた。
「……ハイビスカスだ」
葵は、吸い寄せられるように、その花の説明を読む。
「たくさん種類があるんだ」
彼からもらったのは、真っ赤なハイビスカスだった。
「……本当に、一日しか咲かないんだね」
花言葉もたくさんあった。
「怪盗さんにもいろいろ教えてもらったけど、わたしは一番、これがいいな」
その花言葉を指でなぞる。
【あなたを信じます】
「……またいつか、会えたらいいですね」
そうして葵たちは、夢のような、たくさんの花が咲いていた大きな森を後にした。



