「だからまあなんで知ってるのかって言ったら、圭撫がそんな言い方をしたから、誰が告白したってあっちゃんは付き合わないんだって思ったの。でも別に、振ることが悪いっていうんじゃないよ? あっちゃんにはあっちゃんで考えがあるんだろうし」
キサは、葵の手に自分のそれを重ねてあたたかく包み込んでくれる。
「柚子とも約束してたじゃない。どっちが早く恋に落ちるかって。……だから、あっちゃんは別に人を好きになること自体を諦めてるわけじゃないだって。あたしは、あっちゃんが変われてよかったって、そう思ったよ」
好きって気持ちが怖くて、どうしても怖じ気付いてたところがある。でも、他でもないキサにそう言ってもらえて、本当に嬉しかった。
「ただ、あっちゃんがなんて振ったか知らないんだけどさ、あいつら告る前よりも明らかに攻め力UPしてるよね……」
「あ、やっぱりキサちゃんもそう思う? ちゃんと振ったと思うんだけど、なんかグイグイ来られてて……」
項垂れる葵に、キサはにこりと笑った。
「きっと、そのあっちゃんが振った言葉一つでも、あいつらは嬉しかったんだよ」
「え? でも……」
「人って案外単純なものじゃない? 好きな人と話せるだけで。会えるだけで。見ることができるだけで。考えるだけで。幸せになっちゃうもんなんだ」
「だ、だからストーカーになってしまうと……?」
「そりゃ、ちょっとでも自分のことを知ってもらいたい、その人も知りたいと思ったら、ストーカーにもなっちゃうよ」
「め、迷惑にならない程度で、お願いしたい……」
「ははっ。大丈夫だって。あっちゃんに嫌われるようなことはしないと思うよ?」
「(……アカネくんは、嫌われてもいいから助けたいって言ってくれたけど、そんなことあるわけないよね。嫌われたくないに決まってるのに、そう言ってくれたんだ……)」
それだけ葵のことを思っているんだ伝わってきて、なんだか急に恥ずかしくなる。
「(それでも、わたしにだってみんなに話したくないことがある。大切なみんなを、巻き込みたくないんだ。わたしは、……たとえみんなに嫌われたって、これ以上みんなに迷惑はかけない)」
「あっちゃん……?」
黙り込んでしまった葵の様子を、いつの間にかキサが心配そうに覗き込んでいた。
「あ。ごめん。何?」
「黙っちゃったから、どうしたのかなって思って」
「え? あーいや、たとえね? みんなに嫌われるようなことされたって、わたしがみんなのこと、嫌うわけないのになって思ってただけだよ」
葵がそう言うと、キサは「それはあたしたちもだよ」と笑う。
「もしあたしたちがあっちゃんに酷いことされたって、あたしたちがあっちゃんのこと嫌いになるわけないんだから。それ、よーく覚えておいて?」
「キサちゃん……」
『……本当にそうだったら嬉しい』
それは口に出さないまま、何とかにこりと笑った。



