葵の体は、怯えるように大きく動いた。
だから、それで十分。答えは……Yesだ。
葵は何も話さなかった。ただぎゅっと、何かを堪えるかのように手を握り締め、唇を噛み締めている。そして体が少しだけ、ほんの少しだけだけど、震えているような気がして。
「うん。わかった。ごめんね。もう大丈夫だよ?」
「……ご、めん……」
そんな葵を、自分の腕の中へと収める。
「つらかったね。その時助けてあげられなくてごめんね。体育祭の時も。ミスコンも」
腕の中に収まっている葵は、ただアカネの服を強く握り締め、小さく何度も首を振っていた。
「……おれは、あおいチャンとたくさん話がしたいんだ」
ぎゅっと、アカネは腕の力を少しだけ強める。
「理事長に少しだけ、あおいチャンのこと聞いた。あと、しんとサンから」
「……!」
葵が腕から逃れようとするが、アカネは決して放さなかった。
「二人とも、ほとんど何にも教えてくれなかったよ。だからおれは、あおいチャンのことが知りたいんだ」
「……わ。わたしがっ。知って欲しいと、思ってなくても……?」
「それは、あおいチャンの運命が残酷だから?」
弾かれるように顔を上げた葵の瞳は、不安そうに揺れていた。
「そっか。だから知って欲しくないんだね」
「あ。あかね。くん……」
「ただそう聞かされただけだから、どうしてなのかとかは知らないよ。……おれは、その運命から断ち切ってあげたいから、あおいチャンといっぱい話したいんだ」
「……わたしが、話さなくなるとか、思わなかった? アカネくんの前から。いなくなるとか、思わなかった……?」
不安そうな彼女に、アカネは小さく笑って答える。
「話してはくれなくなっちゃうかもしれないけど、おれらから離れるつもりはないでしょう?」
「……そんなの。わかんないよ……?」
「『付き合えないこと』が『残酷な運命』と関係あるくらいは、おれにだってわかるよ。話したくないって言っておきながら、ぽろぽろこぼしてるもんあおいチャン」
――それが『助けて』と。そう言っているようにしか聞こえない。



