すべてはあの花のために⑤


 顔をこちらに少しだけ向けて、腕の隙間で彼と視線が合う。


「(……なんか。投げ飛ばされた時のアカネくんみたい)」

「……これは、言えないことなのか」

「アカネくん?」

「……これは、おれには話せない?」


 アカネは頭を起こし、ただ真っ直ぐに葵の瞳を見つめる。


「……ずっとじゃ、ない」

「じゃあなんで、誰とも付き合えないの?」

「そ、れは……」

「……もしかして、『願い』と関係がある?」

「――! な、なんでアカネくんがそのことを知ってるんだっ!」

「え? あ、あおいチャン?」


 掴みかかると、アカネは「お、おれは聞いただけだから。『願い』がなんなのかも全然知らないよ?」と、すぐに白旗を揚げた。


「……ほんとう?」

「うん。ほんとだよ」


 ほっとした葵は、「あ。ご、ごめんね」と、慌てて掴んでいた手を下ろす。


「……それで? 願いなの?」

「…………」

「言えない?」

「……願いは、関係、ない……っ」


 下唇を噛みながら、何とかそう絞り出す。


「……ということは『付き合えない』のは、あっちと関係が……」

「あ。アカネくん……?」

「……まあ、ここは『願い』と関係してないってことが知れただけでもよしとしよう」

「えっと……?」


 何かを呟いていたアカネは、すぐに切り替えて葵をじっと見つめてくる。


「……あおいチャン。体育祭の時、一体誰と話をしてたの」


 そしてアカネは、葵に踏み込んだ。