まんまと引っかかった四人は、自力では脱出不可能のよう。立っても滑って転んでいた。
「ちょっと! 何よこれ!」
「誰こんなところに油撒いたのはあ!」
「いや、絶対アオイちゃんだから……」
「あーおーい……」
ちなみにホテルは絨毯が敷いてあるんだけど、連絡通路だけは絨毯は敷かれておりません。なので葵はそこに油を仕掛け、自分の部屋の前にとりもちを準備して、二重トラップを仕掛けていたのです。
「よし。それじゃあキサちゃんの部屋にお邪魔しようかな?」
「そうだね。そうしよう」
「え。あの四人は放っておくの?」
「え? だって、何のために男子と女子の棟を分けているのやら」
「そういうことだね」
「日向たちが平然といることはいいんだね……」
しかし、流石に良心が痛んだ葵は、マイナスイオン機のアカネだけは助けることにした。
「なんでよ!」
「俺らは!?」
「葵~……」
「だ、大丈夫だ。ツバサくんもちゃんと助ける(あとが怖いから)」
「「なんで?!」」
「え? ……なんでだろ。カナデくんは暗黙の了解なんだけど、アキラくんも身の危険を感じるんだよね最近」
「そうだね、アキくんも止めた方がいい」
「あたしもその方がいいと思う」
ヒナタとキサも葵の言葉に頷いている。
「それはそうと、なんであおいチャン真っ白なの?」
「これにはちょっと事情があるんだ。アカネくん掴まって?」
まるでテディーベアみたく、ぺたんと座っている可愛いアカネに手を伸ばす。
「そ、そうなんだ。ありがとう、あおいチャン」
罠を仕掛けた本人にお礼言うのは、そもそもおかしな話なのだが。アカネは葵の手を掴んで、立ち上がろうとしたみたいで。
「あ、アカネくん立っちゃダメ――……ッ?!」
「うわあ……っ!」
こちらまで引っ張るつもりが、その場に立とうとしたアカネに巻き込まれて、葵もすってんころりん。そのままアカネの上に覆い被さるように倒れ込んでしまった。
「……はあ。アカネもバカだったとは」
「いや日向。あんた、そんな余裕ぶってる場合じゃ……」
「は? 何の話?」
アカネに倒れ込んでしまった葵は、しっかりと腕を彼の肩についてゆっくり起き上がる。
「……あ、おい。チャ――ぐはっ!」
そのままアカネの体に思い切り手を突き、油のないところまで飛び上がった。
「……お、おおおおお風呂入ってくるっ!」
そして口元を手の甲で押さえ、真っ赤な顔をしてとりもちも飛び越えた葵は、さっさと部屋の中へと入っていった。ガチャリと、鍵を閉める音がやけに耳についた。
「……お。おれも。お風呂、……入ってくる」
半ば放心状態のアカネは、先程まで起きられなかったのが嘘のように、ふらふら~っと立ち上がって、自分の部屋がある棟へと戻って行った。
葵と同じように真っ赤な顔をして、口元を押さえながら。



