すべてはあの花のために⑤


 まんまと引っかかった四人は、自力では脱出不可能のよう。立っても滑って転んでいた。


「ちょっと! 何よこれ!」

「誰こんなところに油撒いたのはあ!」

「いや、絶対アオイちゃんだから……」

「あーおーい……」


 ちなみにホテルは絨毯が敷いてあるんだけど、連絡通路だけは絨毯は敷かれておりません。なので葵はそこに油を仕掛け、自分の部屋の前にとりもちを準備して、二重トラップを仕掛けていたのです。


「よし。それじゃあキサちゃんの部屋にお邪魔しようかな?」

「そうだね。そうしよう」

「え。あの四人は放っておくの?」

「え? だって、何のために男子と女子の棟を分けているのやら」

「そういうことだね」

「日向たちが平然といることはいいんだね……」


 しかし、流石に良心が痛んだ葵は、マイナスイオン機のアカネだけは助けることにした。


「なんでよ!」

「俺らは!?」

「葵~……」

「だ、大丈夫だ。ツバサくんもちゃんと助ける(あとが怖いから)」

「「なんで?!」」

「え? ……なんでだろ。カナデくんは暗黙の了解なんだけど、アキラくんも身の危険を感じるんだよね最近」

「そうだね、アキくんも止めた方がいい」

「あたしもその方がいいと思う」


 ヒナタとキサも葵の言葉に頷いている。


「それはそうと、なんであおいチャン真っ白なの?」

「これにはちょっと事情があるんだ。アカネくん掴まって?」


 まるでテディーベアみたく、ぺたんと座っている可愛いアカネに手を伸ばす。


「そ、そうなんだ。ありがとう、あおいチャン」


 罠を仕掛けた本人にお礼言うのは、そもそもおかしな話なのだが。アカネは葵の手を掴んで、立ち上がろうとしたみたいで。


「あ、アカネくん立っちゃダメ――……ッ?!」

「うわあ……っ!」


 こちらまで引っ張るつもりが、その場に立とうとしたアカネに巻き込まれて、葵もすってんころりん。そのままアカネの上に覆い被さるように倒れ込んでしまった。


「……はあ。アカネもバカだったとは」

「いや日向。あんた、そんな余裕ぶってる場合じゃ……」

「は? 何の話?」


 アカネに倒れ込んでしまった葵は、しっかりと腕を彼の肩についてゆっくり起き上がる。


「……あ、おい。チャ――ぐはっ!」


 そのままアカネの体に思い切り手を突き、油のないところまで飛び上がった。


「……お、おおおおお風呂入ってくるっ!」


 そして口元を手の甲で押さえ、真っ赤な顔をしてとりもちも飛び越えた葵は、さっさと部屋の中へと入っていった。ガチャリと、鍵を閉める音がやけに耳についた。


「……お。おれも。お風呂、……入ってくる」


 半ば放心状態のアカネは、先程まで起きられなかったのが嘘のように、ふらふら~っと立ち上がって、自分の部屋がある棟へと戻って行った。

 葵と同じように真っ赤な顔をして、口元を押さえながら。