「ぶはっ! ば、バカなんじゃないの。……くくくっ」
「え」
「あら、めずらし」
しゃがみ込んだヒナタは、腹を抱えて大爆笑。
「ヒナタくんが、笑ってる……」
「ははっ。あ? ……ぶっ。い、今ちょっとっ。話しかけないでっ。……ははっ!」
「完全につぼったのね」
ベシッベシッと、葵の肩を叩きながら笑っていた。
「(久し振りに見た。笑ってるの)」
文化祭以来見られてなかったので、なんだかちょっと得した気分。
「あ、あんたバカだったんだね、やっぱり。動くわけないじゃん。……あーしんどー」
「だってすっごい強く拭いてくるんだもん!」
「……そりゃ強く拭きたくもなるでしょ」
「うん?」
「いや、なんでもないよ。……ちゃんと、綺麗な顔してる」
「え」
「それより、あんたも早く風呂入ってくれば?」
「え? あ、いや。このとりもち取らないとわたし部屋には入れないんだよね~……」
「え。やっぱりバカじゃん」
「あ、あっちゃん……」
そうこうしているうちに、向こうの棟から連絡通路を走ってくる四人の姿を発見。
「ふっ。ようやく獲物がやってきたぜい」
「え。誰この人」
「あ、あっちゃん? 取り敢えずあたしの部屋に隠れる?」
キサは自分の部屋に入ろうとしていて、扉を開けて待っている。それに何故かヒナタもついて行っていたけれど。
でも葵は「大丈夫だ」と、そこから動こうとはしなかった。
「は? あんたこのままだと襲われると思うけど」
「茜と翼は多分大丈夫だと思うけど、秋蘭と圭撫はたとえ小麦粉だらけのあっちゃんも、ぺろりといっちゃうと思うよ?」
「え? 意味わかんないけど……まあ見てて。ほら」
連絡通路を指差す葵を、ヒナタとキサは頭にハテナを浮かべながら振り返った。その時。
「「「「ええ――?!」」」」
つるんっと四人が盛大に転んだ。
しかも、起きようと思っても立てない様子だ。
「あ、あっちゃん。何したんだ……」
「え? 油撒いた~」
「やっぱりバカだ……」



