すべてはあの花のために⑤


「ぶはっ! ば、バカなんじゃないの。……くくくっ」

「え」

「あら、めずらし」


 しゃがみ込んだヒナタは、腹を抱えて大爆笑。


「ヒナタくんが、笑ってる……」

「ははっ。あ? ……ぶっ。い、今ちょっとっ。話しかけないでっ。……ははっ!」

「完全につぼったのね」


 ベシッベシッと、葵の肩を叩きながら笑っていた。


「(久し振りに見た。笑ってるの)」


 文化祭以来見られてなかったので、なんだかちょっと得した気分。


「あ、あんたバカだったんだね、やっぱり。動くわけないじゃん。……あーしんどー」

「だってすっごい強く拭いてくるんだもん!」

「……そりゃ強く拭きたくもなるでしょ」

「うん?」

「いや、なんでもないよ。……ちゃんと、綺麗な顔してる」

「え」

「それより、あんたも早く風呂入ってくれば?」

「え? あ、いや。このとりもち取らないとわたし部屋には入れないんだよね~……」

「え。やっぱりバカじゃん」

「あ、あっちゃん……」


 そうこうしているうちに、向こうの棟から連絡通路を走ってくる四人の姿を発見。


「ふっ。ようやく獲物がやってきたぜい」

「え。誰この人」

「あ、あっちゃん? 取り敢えずあたしの部屋に隠れる?」


 キサは自分の部屋に入ろうとしていて、扉を開けて待っている。それに何故かヒナタもついて行っていたけれど。

 でも葵は「大丈夫だ」と、そこから動こうとはしなかった。


「は? あんたこのままだと襲われると思うけど」

「茜と翼は多分大丈夫だと思うけど、秋蘭と圭撫はたとえ小麦粉だらけのあっちゃんも、ぺろりといっちゃうと思うよ?」

「え? 意味わかんないけど……まあ見てて。ほら」


 連絡通路を指差す葵を、ヒナタとキサは頭にハテナを浮かべながら振り返った。その時。


「「「「ええ――?!」」」」


 つるんっと四人が盛大に転んだ。
 しかも、起きようと思っても立てない様子だ。


「あ、あっちゃん。何したんだ……」

「え? 油撒いた~」

「やっぱりバカだ……」