「シンデレラみたいね日向」
「両方ないけどね」
「あは! それもそうだ!」
キサとヒナタがそんな会話をしていたら、葵がスリッパを持ってテクテクやってきた。
「はいヒナタくん! 床にガラスの破片とか落ちちゃってたらいけないからね! ちゃんと履いててねー」
「いや、誰のせいだと……は?」
葵はヒナタの前にしゃがんで彼の足を掴み、両足にズボッとスリッパを履かせてあげた。
「それじゃあわたしは、可愛いウサギさんとネコさんの救出に向かってくるよっ!」
そう言って葵は、何事もなかったかのように、何故か手に食用油と小麦粉を持って出ていった。
「……ふっ。どうですかシンデレラ?(笑)」
「……すごい複雑」
「あ。ちょっと嬉しかったりするんだ?(笑)」
「さっきから(笑)多すぎだし」
「でも、そうなんでしょう? 普通なら男の自分がするようなことでも、あっちゃんに何かしてもらえるだけで日向は嬉しいんだもんねー?」
「違うって。オレは、女のあいつがほいほいこんなことし出す頭のおかしさに頭抱えてるだけ」
「自分にならしてもいいぞ的な? ほいほい他の男にもこんなことはして欲しくないと?」
「まあね」
「ありゃ。案外素直ね」
「え? だってあいつ、オレの下僕だし」
「そ、そう」
全然素直じゃなかった▼
「(……結局のところ、あっちゃんに何かされることって日向はそんなになさそうだし。ちょっとしたことでも嬉しいんだろうな)」
ヒナタは、扉を開けてとりもちを頑張って外そうとしている葵と、自分が履いたスリッパを交互に見つめていた。
「(ま、男としては、こういうことをされて喜ぶべきじゃないって思ってるから、それはそれで複雑なんだろうけど)」
ぶきっちょな弟2号の心情がばっちりわかっているお姉ちゃんだった。



